1月31日 ゲノム解析から「タバコはいつやめても遅くない」ことがわかる(1月29日号 Nature 掲載論文)
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1月31日 ゲノム解析から「タバコはいつやめても遅くない」ことがわかる(1月29日号 Nature 掲載論文)

2020年1月31日
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疫学的には昔から9割近くの肺ガンがタバコが原因であることが示されていたが、ガン細胞のゲノム解析が始まって、喫煙者の肺ガンではゲノムあたりの突然変異が数千、数万に及ぶことがわかり、なるほどタバコが正常肺のゲノムを傷つけ続けていることを認識できた。ただ、私の様に50歳近くまでタバコを吸っていた人間にとって悲しいのは、タバコをやめた人の肺ガンでも、喫煙者と同じ様に突然変異が多いことで、タバコをやめても昔の傷は治らないのかと思っていた。

ただ、ガンは多くの変異が集まって発生することから、発生したガンは変異の多い細胞だけ選択されていると考えられ、肺の通常の細胞がタバコでどのぐらい傷ついているかを明らかにしてはじめて、タバコをやめるメリットがより正確に計算できる。今日紹介するロンドン大学からの論文はガンを含む様々な病気で気管支鏡検査をした時に採取した個々の正常細胞ゲノムを調べ、禁煙した人と喫煙を続けている人とのゲノム変異を調べた研究で1月29日号のNatureに掲載された。タイトルは「Tobacco smoking and somatic mutations in human bronchial epithelium(喫煙による気管支上皮の体細胞突然変異)」だ。

この研究では様々な肺の病気で気管支鏡検査をした、非喫煙者、禁煙した人、喫煙者から、正常上皮をバイオプシーで採取、その組織から細胞コロニーを形成させ、単一細胞由来のコロニーを一人当たり11〜60個採取し、それぞれのゲノムを、だいたい16coverageで解読している。すなわち、同じ人から採取していても、多くの変異は細胞ごとに違っており、この方法でそれが解析できる。一つのコロニーから変異が見つかった場合、解析した配列の中に変異が含まれる確率(変異アレル頻度)は概ね50%で、コロニーが単一細胞から由来していることが確認できる。

実際には膨大な研究なので、結果は箇条書きにまとめると以下の様になる。

  • 各細胞の突然変異数を個人あたりで平均すると、予想通り喫煙経験がない人と比べて、禁煙した人も含めて喫煙歴があると突然変異数は平均で数千のオーダーで高い。
  • ただ予想に反し、喫煙者と比べ、禁煙した人のコロニー同士の多様性は極めて高く、変異の少ない細胞と、変異の多い細胞が混じっている。
  • 禁煙を実施した人の2〜4割の細胞はほとんど正常範囲の変異しかない細胞も見られるが、喫煙者ではこの様な変異の少ない細胞はほとんど存在しない。すなわち、細胞によってはほとんど正常という細胞が禁煙した人には存在するが、喫煙中の人には見られない。
  • 突然変異のタイプを調べると、喫煙者も禁煙した人も、SBS-4と呼ばれる、肺ガンでよく見られる変異のタイプが多い。
  • 予想通り、突然変異が多いほど癌遺伝子や、がん抑制遺伝子の変異も多く、この変化で細胞の進化的優位性が高まっていることも計算できる。
  • 一方、テロメアは正常細胞に近いほど長く、驚くことに、禁煙をした人で変異の少ない細胞は、テロメアも長い。

以上の結果を相互すると、確かに喫煙歴があると、ゲノム変異が上昇するが、変異細胞は静止幹細胞からの新しい細胞で置き換わっている。この静止幹細胞は、変異原から守られており、その結果新しい細胞は変異が少ない、ということになるのだろう。ただ、これだけならもっと喫煙者にも正常に近い細胞が見られてもいいと思うが、ともかくタバコをやめると早い時期から正常型の細胞に置き換わってくれるということがわかったのは重要だ。ようするに、今からでも遅くない。

カテゴリ:論文ウォッチ
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