1月23日 VISTA:最初の免疫チェックポイント(1月17日号 Science 掲載論文)
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1月23日 VISTA:最初の免疫チェックポイント(1月17日号 Science 掲載論文)

2020年1月22日
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チェックポイント治療(CPT)が始まってわかったことは、私たちの免疫システムが自己に対して牙を剥かない様に何重ものチェックポイントが設定されていることだ。ノーベル賞を受賞したCTLA4やPD1だけでなく、ポジティブ、ネガティブ合わせて多くの分子がこの調節に関わることが知られている。

今日紹介するダートマス大学とベイラーカレッジの共同論文はこの中の一つVISTAの機能について調べた研究で1月17日号のScienceに掲載された。タイトルは「VISTA is a checkpoint regulator for naïve T cell quiescence and peripheral tolerance(VISTAはナイーブT細胞の静止期とトレランスの調節分子)」だ。

この論文を読むまでVISTAのことはおとんど何も知らなかったが、B7ファミリー分子でチェックポイント分子の一つと言える。ただ、免疫反応の途中で反応細胞を疲弊させるPD1のように抗原刺激後発現するのではなく、まだ刺激を受けていないT細胞に広く発現していることが知られている。

これまでVISTAノックアウトマウスは自己免疫病になることが知られており、チェックポイント分子であると考えられていたが、ナイーブT細胞での機能はまだはっきりとしていなかった様だ。この研究ではVISTAノックアウトT細胞をsingle cell trascriptomeで調べ、VISTAが欠損すると静止期のT細胞が消失し、活性化された記憶タイプのT細胞になること、また転写レベルでVISTAノックアウトでは静止期の維持に関わるKLF2などを含む様々な分子の発現が低下することを発見する。

次に、ATAC-seqを用いてVISTAの下流で変化する遺伝子のクロマチン構造を調べ、静止期を維持する様々な分子のクロマチン構造がVISTA刺激によりonになることを明らかにする。すなわち、VISTAは免疫反応の最初に、抗原により刺激されたT細胞が強い反応を起こすのを、クロマチン構造の修飾を変化させることで、量依存的に抑えていることが明らかになった。

最後にVISTAを活性化するモノクローナル抗体を作成し、この抗体でナイーブT細胞を抗原存在下に刺激すると、T細胞がアポトーシスを起こして死滅し、生体内で自己抗原に対して反応が起こるのを止めることを明らかにしている。作成が難しいのか、抑制的に働くモノクローナル抗体は作成できていない。

以上の結果から、VISTAが抗原刺激初期のチェックポイント分子で、細胞を静止期に止めるとともに、抗原シグナルに応じて細胞死を誘導することを明らかにし、その後CTLA4、PD1と異なるステージを調節するチェックポイント分子が使われる階層性を持つことを示している。

また、活性化型の抗体を使った研究は、今後自己免疫を抑えるための手段としてこの抗体が使える可能性を示唆している。あるいは、臓器移植時にこの抗体でVISTAを刺激しトレランスを誘導できるかもしれない。一方、もし可能なら抑制型の抗体も作り、免疫初期段階でチェックポイントを外してがん免疫をより高めるという研究も可能になるかもしれない。しかし、免疫はなんと重装備のシステムなのか、驚きを禁じ得ない。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月22日 老化を測る(Nature Medicine1月号掲載論文)

2020年1月22日
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この歳になっても、なかなか老境を楽しむほど達観はできていない。少しでも体力が保てるなら努力はしようと思う。しかし、何をすれば一番いいのはっきりとしている方法はない。世の中、アンチエイジングをうたう製品であふれているが、エイジングに効果があることを示すには、長期間の観察が必要だが、その様な科学的な調査に基づく老化を抑える方法の数は多くない。

もう一つ重要な問題は、集団の平均と、集団を形成する個人との結果が一致しないことが多い点だ。たとえば、英国のチャーチルはヤルタ会談出席者の中では最も太っているように見えるが、91歳まで生きて卒中で亡くなっている。したがって太っているから老化が早いという話も、平均値としては言えても、個人に当てはまらないことが多い。結局老化を測るためのマーカーがない。よくあなたの●●年齢はなどと老化度を測ることが行われているが、一つの指標で一喜一憂するのは馬鹿げている。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は106人の健康人(病気ではないがメタボも含まれている)の血清、血液細胞、便細菌叢、鼻腔細菌叢などのオミックス検査を最長4年にわたってほぼ3ヶ月ごとに調べて、平均値としての老化と、個人の老化について比べた研究で1月号のNature Medicineに掲載された。タイトルは「Personal aging markers and ageotypes revealed by deep longitudinal profiling (継時的・徹底的プロファイリングにより個人の老化指標と老化型が明らかになる)」だ。

これまで一つの指標について老化を調べることは行われてきたし、最近では様々な検査を組み合わせたオミックス解析も行われ、老化が代謝、免疫などいくつかの独立した経路で進むことが示されてきた。この研究でも、血液、便、鼻粘膜の3種類のサンプルで調べられることは徹底的に調べた106人の結果から老化に伴う変化の指標を洗い出している。

平均値で見ると、例えば腎臓機能を示すGFRが年齢とともに低下するなど意外な結果が見られたが、これまでの研究とあまり違いはない。面白いところでは、PDGF-BBやVEGF-Dなどが老化とともに上昇するのも、繊維化が進むことを考えるとなんとなくわかる。基本的には年齢と相関するマーカーのほとんどは代謝に関係しており、その4割が脂質にかかわる点も理解できる。腸内細菌叢ではクラスター4のクロストリジウムの割合も重要なマーカーになる様だ。

その上で、これらの指標について参加者一人一人での変化を少なくとも2年以上にわたって追跡している。たかだか2−4年の間にはっきりとした変化が見られるのかと懸念するが、多くの指標を組み合わせて追跡すると、ほとんどの人でしっかり変化が追跡できる。面白いことに、数人ではあるがこれらの指標から変化が逆方向、すなわち若返り方向に進んだ人が発見されている。この人たちの詳しい解析は、若返りを望む人には重要だが、あまり詳しく示されていない。

食事や運動など生活習慣と老化度を調べているが、今回個人レベルでの総合的変化はほとんど生活習慣との関連が認められなかった。一方、例えばA1Cの様な一つ一つの指標で見ると、もちろん体重を落とすなどの効果はしっかりわかる。

どの経路が最も変化するかは人それぞれで、この研究では、免疫、代謝、肝臓機能、腎臓機能についての変化を年齢と相関させているが、免疫系の変化は最も多くの人で見られる。

結果は以上で、要するに一人一人老化は、単純に平均値を反映しないこと、また老化の方向性もひとそれぞれという常識的な結論で、残念ながらアンチエイジングのヒントはないと言っていいだろう。

やはり2−4年は短すぎる。今後同じ集団をさらに長期に追跡することが期待される。しかし、老化度のオミックス検査はある程度可能だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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