お知らせをまず。
AASJのホームページは、お陰様で毎日多くの方々が訪問されるサイトになってきました。そこで、訪問される皆様に迷惑がかからない様、私たちのサイトをSSL暗号化をすることに決めました。この作業のため、今月21日朝9時半から25日夜12時まで、こちらで新しい記事をアップロードできなくなります。またひょっとしたら、皆さんからの書き込みが制限されるかもしれません。ただホームページの閲覧自体は問題ありませんので、この期間もこれまで通り訪問していただければ幸いです。
ただ、新しい記事がアップロードできないと、せっかく1日も欠かさず続けてきた論文ウォッチが途切れてしまいます。そこで、今日から21日朝9時までに、実際の時間は無視して、25日までの記事をアップロードすることにしました。このため、例えば今日は1月18日と、1月19日の2日分の記事がアップロードされます。「え!今日は18日なのに19日になっている」と思われるかもしれませんが、サイトの安全性のための苦肉の策だとご理解ください。
と前置きをした上で、18日の論文として紹介したいのはカリフォルニア大学サンフランシスコ校から発表されたDNAメチル化の安定性を示す研究で1月23日号のCellに掲載された。タイトルは「Evolutionary Persistence of DNA Methylation for Millions of Years after Ancient Loss of a De Novo Methyltransferase(新しいメチル化に関わる酵素を失った後も何百万年もDNAメチル化が進化的に維持される)」だ。
ほとんどの生物で、シチジンのメチル化は、新しいサイトをメチル化するDeNovoメチル化酵素と、メチル化をDNAが複製時にも維持するメチル化酵素のセットで調節されている。例えば哺乳動物ではDnmt1がメチル化維持に、Dnmt3aはDe Novoのメチル化に関わる。ところが中にはメチル化酵素と思われる遺伝子を1個しか持っていない生物があり、真菌感染症の原因の一つクリプトコッカスはその例だ。
この研究ではクリプトコッカスが持っている唯一のメチル化酵素Dnmt5が、DeNovoのメチル化か維持的メチル化に関わるか、様々な実験を行い、維持型のメチル化酵素であることを確認している。
実際、Dnmt5を欠損させるとDNAのメチル化はクリプトコッカスゲノムから消える。そして、メチル化が消えた後でDnmt5を再導入してもメチル化は回復しないことから、Dnmt5が維持型のメチル化酵素であることがわかる。すなわちDnmt5を導入しても新しいメチル化はおこらない。
とはいえ、クリプトコッカスではトランスポゾンやセントロゾームなど、遺伝子の発現抑制が必要なサイトはメチル化されている。すなわち、以前にはDe Novoのメチル化酵素が存在してこれらのサイトをメチル化していたが、この酵素が欠損したあとは、その時にメチル化されたサイトが、維持型のメチル化酵素により現在まで維持されていると想像される。
そこで、クリプトコッカスに近縁の真菌の遺伝子を調べK.mangroviensisには2種類のメチル化酵素があること、従ってクリプトコッカスは3−400万年前にDeNovoのメチル化遺伝子を失ったことがわかった。
とすると、現在クリプトコッカスで見られるメチル化は、DeNovoのシステムが失われた時から、維持型のメチル化酵素だけで維持されてきたことになる。実際、急にDeNovoメチル化酵素を欠損させても、それまでのメチル化パターンは長期間維持できることを示している。さらに、De Novoシステムが欠損しても、極めて低い頻度だが新しいサイトがメチル化されることも観察される。おそらくこれは、遺伝子変換によりメチル化サイトが移動したか、それとも他の酵素によるDe Novoのメチル化と考えられるが、この研究では決めていない。
いずれにせよ、De Novoのシステムが失われた数百万年前からクリプトコッカスはずっと先祖のDe Novoのシステムにより形成されたメチル化パターンを守ってきたことになる。De Novoのシステムがないと、一定のレベルでメチル化は失われるが、おそらく進化によりメチル化が維持されたクリプトコッカスが選択されてきたと考えられる。
読んでみると、メカニズムなどは目新しいものは全くないが、しかしメチル化パターンまで自然選択で維持されるという、ダーウィンの見つけたアルゴリズムには感心する。