1月15日 膵炎をFGF21で治療する(1月8日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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1月15日 膵炎をFGF21で治療する(1月8日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2020年1月15日
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FGF21は私が京大にいた頃、薬学部の伊藤先生により遺伝子クローニングされ、盛んに研究が行われていたのでよく覚えている。どうしてもFGFという名前のせいで増殖因子と思ってしまうが、その作用はFGF2などとは大きく違い、肝臓で作られ、代謝、特に脂肪代謝を調節するホルモンのような働きがあることがわかっている。

今日紹介する米国テキサス大学からの研究は、同じFGF21がすい臓の外分泌腺に直接働くことにヒントを得て、これを急性膵臓炎の治療に使えないか調べた研究で1月8日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Pancreatitis is an FGF21-deficient state that is corrected by replacement therapy (膵臓炎はFGF21が欠損した状態でFGF21で治療できる)」だ。

膵臓炎は自分が分泌する消化酵素が消化管に到達する前に活性を発揮してすい臓の細胞を消化する恐ろしい病気で、致死率も高い。この研究以前にすでにFGF21欠損マウスでは膵臓炎の発生が起こりやすいことが知られており、この研究では膵臓炎を様々な方法で誘導したときFGF21の膵臓での分泌が変化するのか調べている。

結果は予想通りで、3種類の異なる方法で誘導した膵臓炎のすべてで、FGF21は最初誘導されるものの、誘導後12時間以上経つとほとんど発現が消失することがわかった。

次に、ではFGF21を投与することで膵臓炎を改善できるか調べたところ、もちろん正常に戻るまでにはいかないが、全般に炎症の強さは低下し、壊死などは強く抑制できることがわかった。

もともとFGF21は膵臓の外分泌腺で働くことがわかっているので、外分泌腺のβKlothoをノックアウトしてFGF21が効かなくしたマウスで同じ実験を行うと、膵臓炎は全く正常化しないことから、FGF21は直接膵臓の外分泌細胞に働いて膵炎を抑えていることがわかった。

おそらくこの結果は、FGF21によって膵臓で分泌された消化酵素が早期に活性化されることを防いでいる結果と考えられるが、この研究ではこのメカニズムについてはこれ以上追求していない。

代わりにFGF21の発現が膵臓炎で低下するメカニズムを探り、ATF4により転写が誘導されるFGF21遺伝子が、膵臓炎により上昇してきたATF3により抑制されることで、FGF21欠損状態が起こること、同じことは人の膵臓炎でもみられること、そしてATF3を誘導するER ストレスを抑制する薬剤により膵臓炎を抑制できることを示している。

まとめると、膵臓炎誘導時に起こるERストレスでAFT3が発現し、FGF21分泌が抑制されることで、おそらく膵臓の消化酵素の早期活性化が進み、膵臓炎が進行する。したがって、FGF21を注射するか、ERストレスを止めると膵臓炎を治療できるという結果だ。

どちらの治療法も長期間続けるのは問題かもしれないが、短期に投与して膵臓炎を治療できれば、大きな進歩だと思う。

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