1月26日 ストレスで白髪が増えるメカニズム(1月23日 Nature オンライン掲載論文)
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1月26日 ストレスで白髪が増えるメカニズム(1月23日 Nature オンライン掲載論文)

2020年1月26日
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恐怖体験により一夜にして白髪になるという話があるが、すでにメラニンを含む毛から、メラニンが失われることはないと思う。ただ、ストレスが白髪や白斑の原因になることは確かな様だ。とはいえ現役時代、色素細胞の増殖や生存を操作する研究を続けていても、ストレスを用いて操作するということを考えたことは全くなかった。

今日紹介するハーバード大学からの論文はストレスでマウスの白髪を誘導する方法を確立し、このメカニズムを調べた論文で1月23日号のNatureに掲載された。タイトルは「Hyperactivation of sympathetic nerves drives depletion of melanocyte stem cells(交感神経が過興奮することでメラノサイト幹細胞が枯渇する)」で、共著には懐かしいLen ZonやDavid Fisherなどの古い友人が名を連ねている。

ストレスで白髪を誘導する実験系を作るのは難しいのではと個人的には思うが、狭い場所に拘束するストレスや、慢性的に予想外の刺激を受けるストレス、そして最後に唐辛子成分カプサイシンと同じ効果を持つRTXを注射して痛み受容体を刺激するストレスのいずれかを使ってストレスをかけても、時間が経つと白髪を誘導できることを示している。最初に述べた様に、毛からメラニンが抜けることはないので、白髪が見られるのは、毛が生え変わる時に色素細胞が欠損してしまっていることを示している。すなわち生え変わりの時に新しい色素細胞を供給する幹細胞が欠損してしまっていることを示している。

そこで、RTXを注射してストレスを与えた時、メラノサイト幹細胞がどうなっているのか、幹細胞が維持されている毛根上部のバルジ領域を調べると、ほとんどの毛根で5日もすると幹細胞の数が減ってしまうことを発見する。この様に幹細胞が減ってしまうと、次の毛の生え変わりでメラニンを供給する色素細胞が十分作れないことになる。

余談になるが、この結果はもし次の日に全ての毛を抜いて、もう一度同時に再生させれば、一夜にして白髪になるという状態は再現できるかもしれないが、通常の毛の生え変わりサイクルが維持されている限り、白髪が徐々に増えるということになる。

次の問題は、ではなぜストレスで幹細胞数が減少するのかという問題だ。様々な可能性を追求した結果、交感神経興奮により分泌されるノルアドレナリンがメラノサイト幹細胞の減少に関わることを明らかにしている。化学物質を用いて人為的に交感神経を刺激する実験で幹細胞がほとんど消失するのを見せられると、ストレスは禁物という気持ちになる。

では、ノルアドレナリンが実際に幹細胞を殺すのだろうか?これを調べるため、RTXを注射する実験や、ノルアドレナリンを直接毛根に作用させる実験を行い、ノルアドレナリンによって静止期にあった幹細胞が増殖期に入り、その結果幹細胞が枯渇化してしまうことを発見する。実際、この時に細胞周期の阻害剤を作用させて増殖期に入るのを阻害すると、メラノサイト幹細胞が維持される結果、白髪も防止できることを確認している。

結果は以上で、言われてみれば驚くほどの結果ではなく、なぜこんなことがわからなかったのかと思ってしまう。しかしストレスは禁物だということがよくわかった。また白髪は命に関わる話ではないが、静止期の幹細胞もメカニズムがわかれば増殖期に入れる方法があるとすると、がんの幹細胞を枯渇させる方法も開発できるはずだと確信した。

カテゴリ:論文ウォッチ
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