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11月5日 ワクチン接種ルートと臨床効果(11月2日 Nature Immunology オンライン掲載論文)

2020年11月5日

今年の1月3日、新型コロナウイルス感染がまだ密かに広がり始めていた時期、生菌ワクチンの典型と言えるBCGを静脈注射すると、通常の皮下注射や吸入摂取と比べ、遥かに感染予防効果が高いことを示す米国衛生研究所からの論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12053)。これほど差が生まれることを知ると、同じワクチンでも臨床目的に合わせて最適な投与ルートを決めることの重要性がわかる。

今日紹介するやはり米国国立衛生研究所からの論文は、ガンの免疫治療というセッティングでペプチドワクチンの投与ルートを比べた研究で11月2日Nature Immunologyにオンライン掲載された。タイトルは「Intravenous nanoparticle vaccination generates stem-like TCF1 + neoantigen-specific CD8 + T cells (ナノ粒子型ワクチンを静脈注射することで幹細胞型TCF1陽性CD8T細胞が誘導できる)。

全てマウスモデルの研究で、ガン特異的抗原ペプチドは最初から分かっているという設定で研究が行われている。このペプチドと自然免疫を活性化するアジュバントをリポソームに包んでワクチンとし、皮下投与と静脈投与を比べている。基本的に皮下投与では、リンパ管を通して局所リンパ節に取り込まれる一方、静脈投与ではほとんどが脾臓に入る。

さて、まずワクチン摂取をしてからガンを植えるという予防的セッティングで実験を行うと、皮下注射では効果が見られ、またチェックポイント治療(CPI)と組み合わせるとさらに高い効果が得られるが、静脈注射では効果は極めて限られている。

この差は、皮下注射ではガンを殺すエフェクター細胞が誘導されるためで、静脈注射では増殖力が高い幹細胞型のT細胞は誘導できるが、それだけではキラーエフェクター細胞の誘導が弱いことがわかった。

そこで、既にガンが存在し、抗原がガン局所で持続的に発現しているセッティング、すなわちワクチンの治療効果を調べる実験を行うと、今度は皮下投与ではほとんど効果がないが、静脈投与とCPIを組み合わせると、既に存在しているガンをほぼ完璧に治療できることを示している。

臨床的には十分面白い論文だが、トランスレーションのためにはある程度メカニズムの解析が必要となるため、この差の原因をsingle cell RNA解析などの方法を駆使して検討している。

  1. 静脈投与では投与抗原がすぐに消失する一方、皮下投与では長期間抗原が残ること。この結果、皮下投与の場合記憶キラー細胞より、エフェクターキラー細胞が選択的に誘導され、ガンをアタックした後疲弊してしまう。これに対して、抗原パルスにより脾臓で記憶細胞が優先的に発生して、それがガン局所にリクルートされ、ガンを拒絶する。
  2. キラー細胞誘導に関わるDC1は静脈投与後速やかに脾臓外へ移動するが、普通の単球由来DC1が脾臓に流れ込む。このバトンタッチが、記憶成立に重要かもしれない。
  3. キラー記憶誘導の環境として1型インターフェロンは必須だが、これまで考えられてきたIL-12は必要ない。一方、アジュバントによる自然免疫刺激は必須。

以上が結果で、既に担ガン状態にある患者さんの治療という面では、示唆に富む研究だと思う。同じ様に、感染が成立していないときの予防ワクチンも、ルートを変えて投与することも重要で、インフルエンザについては、吸入が効果が高いことが既に示されている(https://aasj.jp/news/watch/12433)。新型コロナウイルスについても、焦らず、安全で最も効果の高いルートを探して欲しい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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