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11月7日 心房細動とカルシトニン (11月4日  Nature オンライン掲載論文)

2020年11月7日

心房細動は、高齢とともに急上昇する病気の一つで、70歳を超えると3%近くに有病率が上昇する。事実、歳とともに、私も友人から相談を受ける回数が増えている。以前は、チャンネル阻害剤など完治には程遠い薬剤治療しかなかったが、現在ではカテーテルによる様々なアブレーション法が開発され、異常興奮部位を除去することで、治療可能性は一変している。しかしこれらは心房細動の分子メカニズムに基づく治療ではない。

今日紹介する英国オックスフォード大学を中心とする研究グループからの論文はカルシトニンという意外なペプチドホルモンが心房細動に関わる可能性を示し、新しい治療法開発に道を開く重要な研究で、11月4日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Paracrine signalling by cardiac calcitonin controls atrial fibrogenesis and arrhythmia(心臓由来のカルシトニン・シグナルは心房の線維形成と不整脈を調節する)」だ。

カルシトニンは通常甲状腺由来で、カルシウム代謝に関わると考えられているが、この研究では最初からこのカルシトニンシグナルの異常が心房細動の犯人だと考え研究を行なっている。というのも、カルシトニンノックアウトマウスで心房細動が誘導され、また心房細動とカルシトニンとの相関がゲノム解析から示されていたからだ。

そこでまずカルシトニン(CT)が心房で合成されるか調べ、CTが心房の筋肉細胞で造られ、そしてその受容体が心房の線維芽細胞で発現することを明らかにする。

次にヒト心房線維芽細胞にCTを点火する実験を行い、線維芽細胞の増殖や移動などの活性が低下し、さらにコラーゲンを分解するBMP1の発現が低下し、コラーゲンなどのマトリックス量が低下することを示している。心房細動では心房に線維化が見られ、これが異常興奮を誘導すると考えられており、この結果はこの可能性にフィットする。ただ、全体の効果が転写より、タンパク質の特異的な変化によることから、さらにメカニズムの解明が必要だと思う。

いずれにせよ、CTにより、心房細動の原因と考えられてきた心房の線維化を抑制できる可能性が示されたので、次に心房細動の患者さんでこのシグナル経路がどうなっているか調べ、心房細動の患者さんの線維芽細胞では受容体の細胞表面への移行が阻害され、CT シグナルが機能しないことを示している。

最後に、マウス心房細動モデルを用いて、CTシグナルを増減させ、CTが十分に機能すると、心房細動を防げることを明らかにしている。

もちろん心房細動の原因には様々あると思うが、多くの患者さんでCT受容体の細胞膜への移行が阻害されることで、線維化が進み、心房細動が起こるとすると、CTに対する反応性も含めた、心房の線維芽細胞の変化を止める方法の開発が重要になる。まだまだ、詳しいメカニズムが示されたわけではないが、心房細動理解の大きなブレークスルーになる様な気がする。

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