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11月8日 ガンに対する免疫トレーニング (10月29日号 Cell 掲載論文)

2020年11月8日
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今年3月、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の感染をBCG摂取で抑制する、いわゆる免疫トレーニングについて紹介した(https://aasj.jp/news/watch/12665)。その後、我が国でも過去のBCG接種が感染予防に効果があるか議論が行われた様だ。ただ、この免疫トレーニングがどの程度持続するかについては明確なデータはなく、基本的には接種後数ヶ月単位の予防効果を期待して使われているのではないだろうか。

よく考えてみると、我が国も免疫トレーニングについてはもともと関心が高い。例えば、BCGや結核菌の細胞膜成分、あるいは有名なところではサルノコシカケといった菌類がガンに効果があると実際の臨床に使われていたことは、年配の方なら記憶にあると思う。ただ、ほとんど根治につながらないことから、結局標準治療にはなり得なかった。

今日紹介する英国ヨーク大学とドイツ・ドレスデン大学からの論文は、タイムスリップした様な気になるガンに対する免疫トレーニングのメカニズムを扱った研究で、10月29日Cellに掲載された。タイトルは「Innate Immune Training of Granulopoiesis Promotes Anti-tumor Activity(顆粒白血球の自然免疫トレーニングにより抗ガン作用を高めることができる)」だ。

タイムスリップしたと言ったが、新しいテクノロジーが駆使されているとはいえ、Cellによく採択されたなというのが正直な感想だ。この研究ではBCGの様な複雑な刺激剤ではなく、グルコースが結合した多糖類βグルカンを刺激に用いている。

実験では、βグルカンを注射後腫瘍を摂取して、腫瘍の増殖を調べると、これまで広く認められている様に様々な腫瘍モデルでβグルカンは腫瘍の増殖を抑える(ただ、増殖自体は続くので根治はできない)。さらに、この抵抗性をトレーニングした好中球移植で、他の個体に移すことができることを明らかにする。

βグルカンの場合の主役を好中球と特定した上で、トレーニングとは何か、まず遺伝子発現を調べ、自然免疫や炎症に関わる様々な分子の発現が上昇して、ガン攻撃型の好中球にプログラムされ直していることが示唆された。

ここまでなら古典的な研究だが、この研究では次にこのプログラムの書き換えが骨髄の好中球の前駆細胞レベルで起こっており、2ヶ月程度活性が維持されていることを明らかにし、持続的エピジェネティックな変化がトレーニングにより誘導される可能性を示した。その上で、このエピジェネティックな変化を調べるために、バーコードを用いるsingle cellレベルのATACseqで染色体の状態をsingle cell levelで調べている。これは、可能であることはわかっているが、情報処理も含めて利用できたという点で、新しいと言える。

実際のデータを見ると、single cell RNA seqと比べてまだまだ使いにくいのではと感じるところもあるが、染色体の構造の違いで、βグルカン処理好中球が全く新しいクラスターとして分類できることは印象深い。RNAseqと異なり、詳しく見れば遺伝子発現のリプログラム以上のことがわかると思うので、これは期待したい。

わざわざscATACseqと違っても同じ結論は得られたと思うが、βグルカンにより誘導される1型インターフェロンにより、白血球の幹細胞がエピジェネティックにリプログラムされ、活性酸素の産生などを通して、ガンの増殖を抑制すると、常識的な結論になっている。

この研究では、最初からリンパ球のないマウスを用いてこの効果を調べていることから、自然免疫トレーニングは、獲得免疫からは独立していることはわかるが、なぜ腫瘍増殖が抑制できるのかなど、まだまだわからないことは多い。とすると、免疫トレーニングが臨床現場に復活するには、時間がかかりそうだ。

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