論文を読んでいると、懐かしい名前に出会うことも多い。しかも私が知っていた時代とはかなり違う領域で頑張っているのを見ると、紹介したくなる。
今日紹介する米国NIH、R.Germain研究室からの論文は、肝臓内の免疫細胞のポジションが細菌の刺激を受けた自然免疫系により決定されることを示した、組織学を重視した研究で11月25日号のNatureに掲載された。タイトルは「Commensal-driven immune zonation of the liver promotes host defence (細菌叢によって決められる肝臓内の免疫の領域化によりホストの防御が促進する)」だ。
私たちの世代ならR.Germainを知っている人が多いと思うが、イメージとしてはT細胞シグナルの研究が中心だったように思う。しかしこの研究では、組織学的に肝臓を様々なマーカーで調べたとき、肝臓に定着している貪食細胞、クッパー細胞が門脈の近くに集まっていることに気づき、その理由を解析するところから始めている。
発生過程を調べると、固形食を食べるようになった時期から、門脈周囲に集まりだすので、これは腸管から流れてくる細菌由来の刺激が自然免疫系を活性化することで起こる現象ではないかと考え、まず無菌マウスを用いてクッパー細胞の分布を調べると、門脈周囲への分布が解消される。
ただ、細菌の影響は、直接免疫細胞に働きかける結果ではなく、門脈血管内皮を刺激することで、組織学的変化が誘導される結果ではないかと考え、自然免疫で細菌由来物質への反応を媒介するMyd88やTlr4を血管内皮特異的にノックアウトすると、やはり門脈周囲への分布が解消されることを発見する。
ここまでをまとめると、クッパー細胞は、生後消化管の細菌叢が形成され、門脈内皮の自然免疫系が刺激されるようになると、門脈周囲に分布するようになることがわかった。当然、次は、自然免疫系が活性化された内皮がいかにしてクッパー細胞などのポジションを決めるかを調べることになる。詳細を省いて結論を述べると、自然免疫系が活性化されると、活性化された細胞の周りにマトリックスが合成され、これにより Cxcl9などのケモカインがトラップされて、これを目掛けてクッパー細胞が移行してくるというシナリオを、組織学的に示している。
最後に、このような免疫系細胞の守備位置を変化させることが、感染防御に重要かを調べる目的で、血管内皮でMyd88を欠損させたマウスと、正常マウスにリステリアを感染させ、クッパー細胞の門膜周囲集中がないと、リステリアが血管外に侵入することを示している。
また、マラリア感染実験で、防御に関わるCD8T細胞も門脈周囲に濃縮することで、感染を効率に防いでいることを示している。
以上、ついつい懐かしい名前だったので紹介したが、研究も十分納得できる面白い結果だった。