標的分子の機能を抑制する化合物の中には、分子に結合してE3ユビキチンリガーゼをリクルートして、標的分子を分解するタイプが存在し、抗癌剤として利用されている。最もポピュラーなのは、サリドマイド・アナログのレナリドマイドで、標的分子に結合したレナリノマイドにCUL4–RBX1–DDB1–CRBNと4種類の分子からなる複合体が結合し、例えば骨髄腫細胞の増殖に必要な転写因子IKZF1などを分解してくれる。通常阻害剤の開発が難しい転写因子に適用できることから、現在もこのメカニズムの探索が進んでいる。
今日紹介するマサチューセッツ工科大学からの論文は、レナリドマイドと同じように標的分子の分解を誘導する化合物だが、新しいメカニズムでBリンパ腫を誘導するBcl6を分解する化合物の開発研究で、11月18日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Small-molecule-induced polymerization triggers degradation of BCL6 (Bcl6を重合させて分解する低分子化合物)」だ。
詳しくは書いていないが、Bcl6依存性に増殖するリンパ腫細胞株などを用いて化合物の探索を行う過程で発見された化合物の一つBI-3802で細胞を処理すると、Bcl6が特異的に分解されることを発見したところからこの研究は始まる。
この分解に至るメカニズムを探ろうと、Bcl6に傾向分子を結合させBI-3802で処理すると、分解される前に、まず分子が凝集して大きなスポットを作り、それが分解されることを発見する。クライオ電顕などを使って、この凝集塊を調べると、螺旋状のフィラメントが形成されることがわかった。すなわち、レナリドマイドとは異なり、BI-3802はBcl6同士を結合させる作用があることがわかった。
では凝集した分子を分解するメカニズムは何か?これを調べるため、BI-3802によるBcl6不活化に関わる分子をクリスパー/Cas9を用いて探索し、E3ユビキチンリガーゼの一つSIAH1が特異的に分解に関わることを発見する。そして、凝集することでBI-3802結合部位の反対側に存在するBcl6のVxPモチーフが露出しそこにSIAH1が結合、分解に至ることを明らかにしている。
話は以上で、新しいメカニズムに基づくBcl6阻害剤が発見されたという結論だが、今後Bcl6のような対称型の分子について、同じメカニズムを用いた阻害剤を開発できる可能性がある。多くの転写因子が発癌に関わり、その一部しか阻害剤が開発できていないことを考えると、サリドマイド型のメカニズムに加えて、分子を凝集させて分解させる新しいメカニズムの発見は重要だと思う。