今騒いでいる新型コロナウイルスの大きさは3万塩基程度で、コードしている遺伝子もどう数えるかによるが30種類ぐらいだ。しかし、世の中にはバクテリアより大きなゲノムサイズで、なんと1000種類以上の遺伝子を持つウイルスの存在が知られている。巨大ウイルスの中には、ウイルスとして必要のない代謝に関わる遺伝子が見つかったり、逆にウイルス由来と思われるRNAポリメラーゼが発見されたりし、両者に密接な共進化関係が想定される様になり、巨大ウイルスの起源に注目が集まっている。
今日紹介するバージニア工科大学からの論文は、既にデータベースに蓄積されている65種類の緑藻植物のゲノムを解析し、巨大核質DNAウイルスゲノムと真核生物の交流を調べた研究で、明確な問題意識さえあれば、インフォーマティックスだけでNature論文が書けることを示す典型だ。タイトルは「Widespread endogenization of giant viruses shapes genomes of green algae (緑藻植物には巨大ウイルスの内在化が広く認められ、ゲノムの形成に関わることを示す)」で、11月18日Natureオンライン掲載された。
既に述べたがこの研究は、巨大ウイルスが緑藻植物のゲノムの形成に重要な働きをしたはずだという構想が全てで、あとはこの視点からゲノムを解析している。と簡単に述べたが、実際にはウイルスのゲノムが巨大なので、どこがホスト部分でどこがウイルス部分かを、しっかり決めることは、高い能力が必要だと想像する。いずれにせよ、この解析を通して、
- 緑藻植物のゲノムに、18種類の巨大ウイルスゲノムを特定でき、巨大ウイルスゲノムの同化が頻繁に起こっていること。さらに、78kbから1925kbという大きな、場合によりほぼ完全なウイルス領域がそのままゲノムに統合されている。
- 統合されたウイルス由来遺伝子は76−1782個に及び、緑藻類の新しい遺伝子のソースとして働いていると想像される。例えばT socialisではなんと10%の機能遺伝子が巨大ウイルス由来で、ウイルスがホストの遺伝子として完全に同化されている。しかしウイルス粒子に必要な構造遺伝子や複製遺伝子などは消失している。
- 同化したウイルス遺伝子にイントロンが挿入されているケースが見られ、これらのイントロンはホストのそれをそのまま使っている。これまで、巨大ウイルス自体のゲノムにイントロンが存在する例が報告されているが、おそらく同化されたウイルスがまた排出されることで進化したと考えられる。事実同化されたウイルスゲノムがまた他のウイルスへ移行する例も特定できる。
- 同化されたウイルス自体の進化と、ホストゲノムの進化が一致しないことから、巨大ウイルスゲノムの同化は何回もにわたって行われている。
以上が主な結果で、緑藻類とウイルスが交雑を繰り返すことで、それぞれのゲノムを進化させてきたことがよく分かる。ウイルスは複製機械を増やそうと弱毒化することが最近特に指摘されているが、今日紹介した様な例を見ていると、私たちがウイルスなしに進化できなかったことが理解できる。
論文紹介は以上ですが、今日7時からいつも通り岡崎さんを聞き手にジャーナルクラブを行います。既に紹介した新型コロナウイルスに対する免疫反応が非定型であることを示す論文を紹介する予定ですが、加えて最近注目されているRNAウイルスワクチンの科学について、モデルナからの論文に絞って紹介する予定です。ぜひご覧ください。