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12月5日 ワクチン開発に必須のアジュバント研究(12月3日号 Science Immunology 掲載論文)

2021年12月5日
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Covid-19に対する様々なワクチンが開発され、またその効果も明らかになってきているが、背景にある科学を調べてみると、結局はその成功は科学的研究力の差であることがよくわかる。

今回のパンデミックでは、脂肪ナノ粒子に封入したmRNAワクチンが最も輝かしい成功を収めたが、これはmRNAの持つアジュバント活性を、修飾した核酸で至適に調節できたこと、利用された脂肪粒子がリンパ節に速やかに移行し、樹状細胞に取り込まれてそこで抗原が合成されたことが大きな要因ではないかと思う。例えばウイルスベクターでは、このような性質を調節することは無理とは言わないまでも、簡単ではないだろう。

一方で、自然免疫系をコントロールし、強い免疫反応を誘導するためのテクノロジーはかなり進んでいる。これを利用して、スパイクなどのタンパク質抗原を用いたワクチンがノババックスのワクチンだと思う。このワクチンの構成を見て欲しいが(https://www.allfunctionalhealth.com/blog/vaccine-update-and-novavax)、スパイクに変異を導入した安定化させた抗原が、サポニンをベースとするケージ様の粒子Matrix-Mにまとめられている。 これは初めて認可されたサポニンベースのワクチンのようだ。

一方、パンデミックが始まったばかりの時期に中国から発表された組み替えタンパク質ワクチンが利用していたのは英国GSKの開発したTLR4を刺激するMPLAと呼ばれるアジュバントだったと記憶している(これは成功しなかったようだが)。

今日紹介するMITからの論文は、ノババックスと同様のサポニンベースのナノケージとGSKが開発した MPLAを合体させたSMNPが、これまでのアジュバントと比べると強い免疫誘導効果があること、そしてそのメカニズムについて調べた研究で12月3日Science Immunologyに掲載された。タイトルは「A particulate saponin/TLR agonist vaccine adjuvant alters lymph flow and modulates adaptive immunity (粒子状サポニン/TLRアゴニストワクチンアジュバントはリンパ流を変化させ獲得免疫を高める)」だ。

結果を箇条書きにすると、

1)自然免疫刺激能力は、MPLAをサポニン粒子に合体させたSMNPが一番高い。

2)さらに、IgG1 抗体産生能も、サポニン粒子だけ、あるいはGSKのMPLA単独より10倍高い誘導能力がある。

3)濾胞T細胞の強い活性化を誘導する。

4)リンパ節に直接SMNPを注射する実験から、このアジュバント構造がマクロファージ数を減少させることで、タンパク抗原がそのままB細胞にアクセスすることを可能にし、早いB細胞反応が起こる。

5)このようにマクロファージ数が低下した状況でもT細胞刺激に必要な抗原処理細胞は必要十分量存在し、SMNPでは強くIL21が誘導されることと合わさって、より強い濾胞T細胞刺激が可能になっている。

6)SMNPを皮下注射すると、マスト細胞を刺激し、おそらく遊離されるヒスタミンなどでリンパ流が上昇し、その結果SMNP ワクチンのほとんどが、所属リンパ組織に取り込まれ、注射部位には残らない。

以上が結果で、特に6番目の結果は驚く。すなわち、皮下注射でもほとんどのワクチンを所属リンパ節に届けることが出来、リンパ節ではマクロファージの数を減らすことで、T細胞に対するペプチド処理は残したまま、抗原特異的B細胞を高率に直接刺激できるという優れものだ。

コロナに限らず、今後様々なワクチンが必要とされるとき、より免疫を自由にコントロールするという意味では、このような技術の開発は重要だ。我が国も新しいワクチン研究に投資をするようだが、投資側も必要な科学を見極めて研究を選ぶ必要がある。今のAMEDにその能力があるのか、お手並み拝見と言うところだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月4日 ES細胞を用いた1型糖尿病細胞治療臨床研究(12月2日号 Cell Stem Cell 掲載論文)

2021年12月4日
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私が全ての公職を辞したのは2013年で、当時プログラムディレクターを務めていた再生医療実現プロジェクト、特にiPSを臨床に使うという道筋がついたことで、安心してやめる気持ちになれた。有効かどうかは別として、その後黄斑変性を皮切りに、パーキンソン病、心不全、角膜など期待通り臨床応用が実現しているのは、予想以上だったと思っている。

実現化プロジェクトを文科省の石井さんと始めたのは、iPSから分化した細胞を作るという基礎研究と、臨床応用の間には、臨床応用に必要な工夫、安全性、倫理など大きな壁が立ちはだかっており、分化した細胞の純度や機能などの優劣を競うだけの研究、すなわち研究のための研究だけではらちが明かないと考えたからだ。従って、最初選んだ研究者たちには、論文業績は問わないから、臨床研究までのハードルを全てクリアーするために力を注いで欲しいとお願いした。

これらの成功を見ていると、やはり臨床に向けての様々な連携がないと、この分野で高い競争力を維持することが難しいことがわかる。この点から言うと、私がやめる前後はまだいい線をいっていた膵臓β細胞を多能性幹細胞(PSC)から調整する研究は、現在、低迷しているように思う。やめた後、日本IDDMネットワークとのお付き合いが増えて、研究助成申請書も見る機会があるが、はっきり言って細胞移植治療推進という観点からは研究のための研究で終わっているように思う。

そんな折、今日紹介するカナダ、アルバータ大学やブリティッシュコロンビア大学とViaCyte社から発表されたPSC由来細胞を用いた1型糖尿病の治療治験についての2編の論文は、β細胞治療もここまで来たかという感慨が深い論文であるとともに、我が国での研究は、よほどの大発見があるか、あるいは臨床中心に再編しない限り、世界からますます遅れていくという印象を深くした。Cell Stem Cell に発表された論文は2編あるが、ここでは2編目の論文のみ紹介する。タイトルは「Implanted pluripotent stem-cell-derived pancreatic endoderm cells secrete glucose-responsive Cpeptide in patients with type 1 diabetes (移植した多能性幹細胞由来膵臓内胚葉細胞はブドウ糖に反応してCペプチドを一型糖尿病患者さんで分泌する)」だ。

まずこの分野を歴史的に見ておこう。ES細胞から膵臓細胞培養法というと、D’Amourたちの2005年の仕事が際だっており、この仕事を知ったとき、細胞の大量生産とコストを考えながら研究することの重要性を思い知った。この時点で、我が国の研究は大きく遅れをとってしまった。

一刻も早く臨床へと言う彼らの意図がわかるのは、このプロトコルからβ細胞は作れるが、効率とコストを考え、あえてβ細胞にこだわらず、身体の中でβ細胞へ分化したら良いと割り切り、実際の臨床応用には途中段階のPancreatic endoderm(PE)を使うよう方向転換したことだ。

この結果ViaCyteというベンチャー企業がPE細胞をカプセルの中に詰め込んで治験を行い、C-ペプチドの分泌を確認したのが2018年だ。ただ、この方法は完全に移植細胞をホストから守ろうとして、逆に異物反応を誘導しうまくいかなかったようだ(というのも2018年学会発表以降論文が出ていない)。

これに対し、ViaCyteは、完全に細胞を隔離するのではなく、ホスト側の血管も入ってこれるカプセルを開発した。この論文では、このカプセルに2-5億個のPE細胞を詰め込み、この治験では15人に移植している。その後、C-ペプチドの分泌を中心に、様々なパラメータを調べるとともに、最後はカプセルの一部または全部を取り出し、組織学的に検討している。

結果だが、

  1. 血管が入ってくるカプセルなので、免疫細胞の浸潤も有り、免疫抑制剤を持続的に使う必要があるが、このカプセル自体の有害事象はほとんどなく、多くの患者さんが、1年以上カプセルを移植されたまま過ごせた。
  2. 一番重要なのは、移植前はCペプチド(プロインシュリンからインシュリンが切り出された残り)が存在しない患者さんで、移植後4ヶ月ぐらいから血中のCペプチドが検出されるようになっている点で、ばらつきは多いが、ともかく全例で見られている。すなわち、移植した細胞がβ細胞へ分化して働いた。
  3. 完全にインシュリンから離脱できた例は1例だけだが、必要なインシュリン量が2割減ると同時に、低血糖発作は劇的に低下、また低血糖の自覚が明瞭になってきた。
  4. 移植した細胞は食事に反応してCペプチドを分泌する。
  5. 末梢血での抑制性T細胞の数が増えてきている。
  6. 組織学的に、ホストの血管が侵入し、β細胞の分化がカプセル内で起こっている。
  7. ただ、この方法ではβ細胞より、α細胞への分化が強く誘導されるので、今後の改善点になる。

が重要なものだろう。

いずれにせよ、多能性細胞から誘導した膵臓内胚葉移植で論文として現れたのはこれが最初だと思う。最初の論文には、エドモントンプロトコルで有名なアルバータ大学も入っており、21世紀に入って進んできた基礎研究が、材料工学、臨床医などの協力で一つにまとまった成果だと思っている。

私がプログラムディレクターをしていたときからすでに10年がたつが、現在もβ細胞分化プロジェクトに関わる我が国の研究者は、この総合性をいかにして日本で実現するのか具体的な提案をまず示すべきで、個別にこれまでの研究をただ続ければいいという話でないと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月3日 1型糖尿病を誘導するキラー幹細胞(11月30日 Nature オンライン掲載論文)

2021年12月3日
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木曜日から金曜日はNatureとScienceのウェッブサイトがアップデートされるので、今週はどんな話に出会えるかといつも楽しみだ。トップジャーナルにこだわるのはナンセンスとわかっていても、確かに面白いと思える論文に当たる確率は多い。名の通ったワイナリーにも裏切られることも多く、また名もないワイナリーにおいしいワインがあるのはわかっていても、高くても名の通ったワイナリーを買うと、高い確率で満足できるのと同じだろう。もちろん生産者(研究者)も、トップジャーナルなど気にしないよほどの実力者は別として(友人の月田さんがそうだったが)、なんとかトップジャーナルに論文を掲載したいと望んで、研究をしていると思う。かくいう私のラボでも、Natureなどのトップジャーナルにアクセプトされると上等のワインを開けた。

今日紹介するスローンケッタリング・ガンセンターからの論文も、トップジャーナルを読む期待を満足させてくれる論文の例で、1型糖尿病でβ細胞を傷害するキラーT細胞の細胞動態を解明し、自己免疫成立過程理解に新しい可能性を開いた面白い研究で、11月30日Natureにオンライン出版された。タイトルは「An autoimmune stem-like CD8 T cell population drives type 1 diabetes(自己免疫活性を持つ幹細胞様のCD8T細胞集団が1型糖尿病の原因)」だ。

極めて真面目な研究だ。誰もが利用している1型糖尿病モデルマウスNODで糖尿病が発症するまで、自己抗原として知られているIslet specific glucose-6-phosphatase catalytic subunit related protein:IGRP)由来ペプチド反応性のT細胞を、ペプチドとMHCが結合した抗原で染め、病気の進行とともに膵臓支配リンパ節と膵臓に現れる抗原特異的T細胞を丹念に追跡している。

驚くことに、病気が進むと特異的CD8T細胞の数はリンパ節内T細胞の2割にも及ぶようになる。そしてこの抗原特異的T細胞がTCF1と呼ばれるT細胞自己再生に関わる転写因子発現で、TCF-highと-lowに分けられること、リンパ節には両方存在するが、膵臓内にはTCF1-lowしか存在しないことを発見する。

Single cell RNA seqを用いた細胞分化過程の解析から、抗原特異的T細胞分化は、リンパ節のTCF1-highから、TCF1-lowへ、そして膵臓のTCF1-low細胞へと分化することを確認している。

面白いことに、同じ抗原をリステリア菌に発現させ、感染を模した実験系で誘導された抗原特異的T細胞では、同じようなリンパ組織のメモリー細胞を誘導できないことから、この現象は膵臓β細胞に対する自己免疫反応に特徴といえる(この辺の実験はかなりプロフェッショナルを感じさせる)。

Single cell転写解析から、一般的な幹細胞の自己再生に働くWntシグナルがTCF1-hig細胞でも強く効いていることから、血液幹細胞と同じように、TCF1-highから、分化したTCF1-lowへの階層性が確立しており、自己再生能力が分化に応じて低下すると考え、この可能性をそれぞれのポピュレーションの移植実験で調べている。

期待通りと言うべきか、細胞移植により糖尿病を誘導できるのはTCF1-highの幹細胞だけで、分化した細胞では一時的な細胞障害は起こっても長続きしない。さらに、このCD8T幹細胞は、血液幹細胞と同じで、1次ホスト、2次ホストと継代することが可能であることを明らかにしている。

そして、転写解析から幹細胞がリンパ節内で自己再生しつつ分化すると、様々な細胞移動に関わる分子が発現し、膵臓に移行し細胞障害性を発揮することがわかる。

結果は以上で、幹細胞から分化、そして細胞移動、最後に細胞障害と美しいまでのキラーT細胞の階層性に裏付けられて、1型糖尿病が成立していることがよくわかった。

ここまで来ると、なぜリンパ節で自己再生が維持できるのかについて解明して欲しいと思う。これがわかると、幹細胞レベルで自己免疫の成立を抑えることが可能になる。さすがトップジャーナルと思わせる、納得満足の論文だった。今度1型糖尿病ネットワークの人たちと勉強会をするので、是非知らせてあげたい。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月2日 自閉症スペクトラムと腸内細菌叢:原因か結果か?(11月24日号 Cell 掲載論文)

2021年12月2日
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このHPでも自閉症スペクトラム(ASD)の症状に腸内細菌叢が関与していることを示唆する論文を何回も紹介している。もともとASDでは便通異常や食習慣の違いなどが指摘されていることから、ASDと腸内細菌叢に何らかの相関があってもいいとは思うが、例えば今年3月紹介したベーラー大学から発表された論文は、ASD児の便移植により同じ症状がマウスに移せるという驚くべき結果を報告し、細菌叢の変化自体がASD症状の原因であると結論している(https://aasj.jp/news/watch/15247)。

こんな論文を見ると、細菌叢が原因かと考えてしまうが、この現象を生み出したあらゆる可能性を検討し直し、結論が正しいか調べ続けることが科学の責務で、特にASD児への便移植治療が行われていることを考えると(https://aasj.jp/news/watch/10036)、細菌叢の変化が原因か結果か慎重に見極める必要がある。

今日紹介するオーストラリア・クイーンズランド大学からの論文は、ASDと細菌叢といった単純な相関ではなく、細菌叢とASDの示す様々な症状データとの相関を突き詰めていくことで、細菌叢がASD症状の原因になっていることを否定した研究で、11月24日号Cellに掲載されている。タイトルは「Autism-related dietary preferences mediate autism-gut microbiome associations(自閉症に関連する食事の好みが自閉症と腸内細菌叢の相関を媒介している)」だ。

ゲノム研究もそうだが、ビッグデータを元に、病気を調べる手法はどうしても結果がばらつく傾向が出る。従って、これまで示されてきたASDと腸内細菌叢との相関は、新しい目で常に再検討していく必要がある。

この研究ではASD99人、その兄弟姉妹51人、そしてASDではない子供について、便の細菌叢を検査するとともに、体重などの身体データ、ゲノムなどのオミックスデータ、様々な行動、生活習慣データを全て集め、細菌叢がASDのどの性質と相関するかについて詳しく検討している。

さらに、細菌叢の検査も、細菌種のみを特定する16SrRNA解析ではなく、存在するバクテリアの全ゲノム配列を調べるメタゲノム解析を行っている。この論文では、大変なメタゲノム解析データの一部しか利用されていないが(例えば代謝マップなどがわかる)、それでも定量的にもより正確な細菌叢データを用いていると言える。

こうして得られた様々なパラメータ間の相関を比べて、細菌叢とASDとの関わりを追求すると、

  1. 細菌叢の構成と相関を示すのは、正常、ASDを問わず、年齢やBMIだけで、ASD診断は全く相関が見られない。
  2. 個々の細菌種とASDとの相関を調べると、Romboutsia timonensisといくつかの細菌種がリストされるが、これまで報告されているPrevotella, Firmicutesなどは、全く相関が見られない。
  3. メタゲノムから想定される、細菌叢ゲノムの示す様々な機能との相関も全く存在しない。
  4. ASDでは、食事の多様性が強く見られる。この多様性と並行して、細菌叢の多様性が特定できる。すなわち、ASDの子供の中には、肉をあまり食べない、あるいは食が単調になるなどの性質が見られることが多く、このような習慣で細菌叢の多様性が決まる。従って、ASDと弱く相関する細菌叢も、基本的には食習慣や、便通異常の結果と考えられる。

結果は以上で、ASDを単純なグループとして考えてしまうと、行動や食習慣の違いを見落とし、間違った結論に陥る可能性を示唆している。そして、現在進む便移植治療については、より慎重になるよう促している。

外野としては、どちらが正しいのか混乱するが、多くのパラメーターを同時に検討することの重要性はよくわかった。細菌叢と自閉症、原因と結果についての議論はまだまだ続きそうだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

12月1日 スマフォでCovid-19感染の予兆をキャッチする(11月29日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2021年12月1日
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Covid-19第5波真っ盛りの今年の夏、我が国のデパートで高級腕時計の売り上げが急増したというニュースが流れた。リベンジ消費のはなしだが、時を刻む腕時計に、今も多くの人が特別な価値を認めている証拠だと思う。しかし、私も含めて腕時計に特別な思い入れを持たない人間も多くいる。そんな人間が一端Apple Watchなどスマートウォッチに変えると、おそらく普通の時計は買わなくなると思う。特にスマフォと連動しているので便利だ。

医療の面から見ると、スマートウォッチはウエアラブルセンサーとしての機能を備えており、身体活動は言うに及ばず、心拍数から酸素飽和度まで、多くのパラメーターを持続的に測ることができる。特異的な検査でないので、病気の診断には役立たないと思ってしまうが、持続的に計測する威力は絶大で、以前紹介したように、心拍数、運動、体温、皮膚電位の4種類のデータは、多くの血液検査データと相関させられ、体調変化を知るためのセンサーとして使えることが示されている(https://aasj.jp/news/watch/15916)。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、スマートウォッチのこのような機能を用いてCovid-19感染をキャッチできるか調べた研究で11月29日Nature Medicineにオンライン掲載された。タイトルは「Real-time alerting system for COVID-19 and other stress events using wearable data(ウエアラブルデータを用いてCovid-19および他のストレス要因に対するリアルタイムアラートシステム)」だ。

この研究ではApple WatchおよびFitbitのユーザーを対象に、安静時心拍数を基本として、感染などの身体ストレスを検知するアプリケーション、NightSignal(https://github.com/StanfordBioinformatics/wearable-infection)を設計、このデータを対象者が毎日インプットする症状およびCovid-19感染についての情報と相関させ、スマートウォッチによりCovid-19感染がどこまでキャッチできるか調べている。

対象者は3318人で、そのうち84人がCovid-19陽性と診断され、18人は全く症状が見られなかった。さて結果だが、「こんな簡単な指標だけでよくまあ!!」と驚く結果で、なんと症状のでたCovid-19の80%でアラートがでており、無症状者18人のうち14人も、確定診断前後にはっきりとアラートが出ていたことがわかった。

ではいつアラートが出たのかを調べていくと、症状が出た場合は、平均で発症の3日前にアラートが始まっている。もちろん最もアラートが多く出た時期は、発症の日と一致している。一方、無症状者ではほとんどがPCRテストより前にアラートが出ており、診断以後にはアラートがほとんど出ない。

重要なメッセージは以上で、他にも症状の進行や、ワクチンとの相関も調べているが、省いていいだろう。要するに、身体的ストレスは、自覚症状がない場合も捉えることができ、特に感染症でその威力を発揮することが示された。

もちろん、現在のようなCovid-19が流行している段階を除くと、どの感染症にかかっているのかも知りたくなるだろう。この研究でも始めているが、特徴的な症状をインプットすることで、感染症の種類を大まかに診断できるようになると思う。

さらに最近紹介したようにCRISPRを用いて、結果をスマフォで検出するCovid-19検査まで開発されている(https://aasj.jp/news/watch/14464)。すなわち、オンライン診療などと議論している我が国の遙か先を、技術は可能にしつつあると言える。

このような論文に対して、おそらく正確でないとか、心配させるだけだとか、様々な批判が出ると思う。しかし、同じことはcovid-19パンデミックの初期にも多く見られた。今でこそPCRは日常化し、マスクは国民の習慣になったが、最初の頃は、PCRは混乱を招くだけという専門家の批判は多かったし、マスクに至っては、厳密な基準を適用して、意味がないとまで言う人たちまでいた。

しかし、病原体の確定診断なしに医療はないことは当然だし、マスクで一滴でも飛沫が吸収されるのなら、できることは何でもやるという姿勢が重要だと思っている。その意味で、身体に対するストレスが感染アラートとして使えるなら、一人でも早期に気づくという意味で使った方がいい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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