Single cell RNA sequencing によって様々な細胞が解析されるにつれて、一つの細胞タイプがますます詳しく分類されるようになっている。その典型が線維芽細胞だろう。形態的に分類がほとんど出来なかった線維芽細胞は、今や10種類を超すサブタイプに分類されるようになった。
神経系細胞では元々多様性が高いことが知られ、神経の興奮の微調節に関わる介在神経が面白い。元々分子マーカーで5種類に分けられていたが、scRNAseq により今ではさらに数多くのサブタイプに分けられている。ただ、それぞれのサブタイプの神経生理学的な機能を調べるのは簡単ではない。これには細胞が生きているうちに生理機能を調べ、その後細胞の遺伝子発現なりを調べる必要があり、一つの細胞を2回全く異なる方法で調べる必要がある。これまで Patch-seq と呼ばれる方法、すなわちパッチクランプで細胞を調べ、そのままその細胞の核を取り出し遺伝子発現を調べる方法が用いられていた。ただ、これでは特定の領域の細胞活動を生きた動物で調べる目的にはほど遠い。
今日紹介する University College London からの論文は、バーコードを用いた72遺伝子の発現を組織的に調べる方法と、Ca センサーによる神経活動の長期記録を組みあわせ、介在神経の遺伝子発現と機能を相関させた力作中の力作で7月6日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A transcriptomic axis predicts state modulation of cortical interneurons(遺伝子発現のパターンにより皮質の介在神経の状態を予測できる)」だ。
この研究では自由に動き回るマウスで、様々な状態での視覚に関わる領域の活動を Ca センサーで連続的に記録し、その後その領域を取り出し、そこに存在する介在神経をバーコード化された72種類の遺伝子プローブで調べ、個々の介在神経の遺伝子発現と、神経興奮の記録を相関させている。
簡単に書いてしまったが、これが出来るということがすごい。まず興奮の記録と、遺伝子発現の記録を一つの立体組織上に再構成する必要がある。これを実現するだけでも膨大な情報処理が必要になる。
この結果、例えば動いているときと、ジッとしているときの視覚野で、どのタイプの介在神経が活動しているかを明らかに出来る。詳細を省いて結果を箇条書きにすると、
- これまで5種類に分けられていた介在神経を40種類近くのサブタイプに分けることが出来る。
- 異なる状況での神経興奮と、サブタイプを相関させると、遺伝子発現の違いにより、興奮する状況が異なる。
- ただ、遺伝子発現の違いによる機能的変化は連続的で、介在神経機能が連続的になるようプランされている。
- また、様々なパターンによる異なる視覚刺激でも、それぞれのサブタイプが異なる反応を示す。
- 詳しく探索すると、この機能的変化の違いを、例えば GABA 合成レベルの違いや、アセチルコリン受容体発現の違いとさらに相関させることが出来る。
他にもまだまだいろんなメッセージが詰め込まれているが、このぐらいでいいだろう。scRNAseq の結果を、組織に展開し直し、それを機能と相関させることで、様々な情報を集めて興奮を調節している介在神経の機能の多様性の意味をようやく理解できるときが来たように感じる。
介在神経は精神疾患を理解するときの鍵であることを思うと、大きな期待を持って見ていきたい。