2015年4月、「膵臓ガンの早期診断は可能か」と題して、スウェーデン・カロリンスカ大学で行われた、遺伝的ハイリスクグループについて定期検診による膵臓ガン発見スクリーニングの試みを紹介した(https://aasj.jp/news/watch/3240)。ただこの時は、対象人数が少ないことなどから、確かにステージⅠのガンを発見できるようだが、今後の大規模調査が必要だと結論しておいた。
同じような試みは各国で行われているようで、今日紹介するジョンズホプキンス大学を中心とした多施設共同研究の論文は、やはり遺伝的ハイリスクグループでも、1年に1回の検診で進行前の膵臓ガンを見つけられることを明らかにした研究で、6月15日 Journal of Clinical Oncology にオンライン掲載された。タイトルは「The Multicenter Cancer of Pancreas Screening Study: Impact on Stage and Survival(膵臓ガン早期発見のための多施設研究;定期検診のステージと生存に対するインパクト)」だ。
このグループは早期診断のための臨床治験を大規模に行っており、この論文では、まず、その中のCAPS5と名付けられた2014年から2021年まで追跡しているコホートについての中間報告になっている。
早期診断のための検査は、内視鏡による超音波検査か、MRCPと呼ばれる MRI を用いて胆管膵管を調べる方法が用いられ、他の検査は診断基準から外されている。
対象は、BRCA1 など何らかの膵臓ガンリスク遺伝子が有る、近親者に膵臓ガンがいる、そして既に他のガンにかかった、などの条件を満たす人たちを1年に1回検査し、膵臓ガンを発症した人をフォローアップしている。
ハイリスクでも、ガンの発見率は1年で160人に1人ぐらいなので、驚くほど高いというわけではない。この研究で最も重要な点は、定期検診により発見された9人の膵臓ガン患者さんのうち、7人がステージⅠで、さらにもう一人はステージ IIA で、手術が行われた点だ。一方、一人はステージⅢで発見されているので、1年(実際には6−14ヶ月の間隔)では、完全というわけではない。
膵臓ガン発見後、現在までの時間経過はそれぞれ違うので、この結果だけからは正確な統計はとれないが、推計学的計算を行っているが、生存期間は3.84年と、平均の1.5年を大きく上回っている。いずれにせよ、印象としてはかなり良い。
このような検査で問題になるのは、過剰診断だ。この方法で膵管の嚢胞が発見されると、やはり念のためと手術が勧められる。このコホートでは、8例が嚢胞と診断され、そのうち3例だけで前がん状態が発見されている。この3例は全員生存しており、経過観察中だ。
これに加えて、これまでの CAPS1-CAPS4 も合わせた結果も示されている。対象は同じで遺伝子診断を含むハイリスクグループで、結果は驚くべきものだ。一般に膵臓ガンの診断時、85%がステージⅣで、生存期間が平均1.5年だが、定期検診で見つかった膵臓ガンの57%がステージⅠで、平均生存期間は9.8年で、素晴らしい結果だ。一方手術して悪性所見がなかったケースは13例あるが、基本的に全員生存している。
以上が結果で、内視鏡超音波かMRCPによる検査は、間違いなく膵臓ガンの早期発見を保証することが示されており、少なくとも遺伝リスクのある人は、考えて損はないように思う。