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7月22日 迷走神経刺激がリハビリテーション効果を高める理由(7月19日 Neuron オンライン掲載論文)

2022年7月22日
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迷走神経刺激は現在様々な病気に使われている。特に難治性のてんかんについては効果が高く、刺激のための機械を設置するために手術が必要だが、重要な治療手段になりつつある。

さらに昨年、同じ迷走神経刺激が脳梗塞後のリハビリテーションの効果を高めるという重要な報告がThe Lancetに報告され(下図)、FDAでも認められた治療として登場した。

ただ、何故このような効果が得られるのかについてはよくわかっていない。コリン作動性の神経を高めることでリハビリテーションの効果を高められることがわかっているので、迷走神経がおそらくコリン作動性神経を活性化させるからだと説明されていた。

今日紹介するコロラド医科大学からの論文は、マウスを用いて迷走神経刺激が運動学習に及ぼす効果を調べた研究で、単純なリハビリ課題にせず、まず複雑な運動の習熟過程に焦点を当てて影響を調べることで、何故無関係と思われる迷走神経が運動の習熟を促進するかに一つの回答を与えている。タイトルは「Vagus nerve stimulation drives selective circuit modulation through cholinergic reinforcement(迷走神経刺激はコリン作動性強化を介して選択的に運動神経回路を変化させる)」で、7月19日 Neuronにオンライン掲載された。

既に述べたように、この研究ではマウスがケージの隙間から前足を使ってレバーを動かし、褒美を得るという、マウスにとっては結構難しい課題を練習して習熟する過程に焦点を当てている。

この時、手を伸ばす過程、あるは課題を成し遂げた後に、迷走神経刺激を行い、その効果を見ると、どちらの刺激でも習熟度を高めることが出来る。この迷走神経刺激で高められた能力は、大体1週間がピークだが、2週目でもまだ効果が見られる。また、詳しい行動学的解析から、迷走神経刺激がレバーに手を伸ばす過程が、最適の過程に収束させるのに働いていることを確認している。

この結果は、迷走神経が確かに運動過程に介入できることを示している。そこで、まず迷走神経が前脳基底部のコリン作動性神経を活性化するかどうか調べ、期待通り、前脳基底部のコリン作動性神経の半分が迷走神経刺激に反応することを特定している。

必要な行動を運動野に表象し、この表象に従って行動を行うことが習熟には必要になるが、迷走神経刺激は前脳基底部のコリン作動性神経を介して、運動皮質の興奮や興奮抑制に関われることを示している。すなわち、迷走神経、前脳基底部、そして運動皮質にサーキットが形成されている。そして、迷走神経刺激により、前足をレバーに伸ばして動かすための運動神経野の神経表象が特に強く刺激され、これによりこの神経表象パターンが現れやすくなることが、習熟の背景にあることを明らかにしている。

わかりやすくするため定性的に述べたが、実際には神経学的に詳しい実験が行われている。またここで示された回路の詳細については、今後の研究が必要だが、これまで考えられたように、皮質全体が無作為に活性化されるのではなく、課題に関わる運動表象に関わる限られた神経を高めるという発見は、ひょっとしたらリハビリのやり方にも役に立つかもしれない。

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