アルツハイマー病(AD)の最大のリスクは老化だが、脳老化とADを直接結びつける明確なメカニズムはわかっていない。一方、脳の老化というと、血管性の虚血などに起因するミエリン障害がポピュラーで、MRI検査で白質障害が見られますと言われるのは、これを意味する。
今日紹介するドイツ・ゲッチンゲンのマックスプランク研究所からの論文は、老化によるミエリン障害がミクログリアのアミロイドプラーク除去を低下させる一方、神経でのアミロイドの合成を高める役割があることを示し、老化がADのリスク要因になりうるメカニズムの一端を明らかにした研究で、5月31日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Myelin dysfunction drives amyloid-β deposition in models of Alzheimer’s disease(アルツハイマー病モデルでミエリン異常はアミロイドβの沈殿を誘導する)」だ。
ADの脳を調べていて、原因か結果かは明らかではないものの、常にミエリンの消失も伴っていることに注目し、ミエリン異常が原因となるかどうかを、ミエリン異常を起こす遺伝的マウスとアミロイド沈殿が起こるトランスジェニックマウスを組みあわせて調べている。
その結果、ミエリン異常を合併したマウスでは、アミロイドプラークの数や大きさが著しく上昇すること、またミエリン異常とアミロイド蓄積は協調的に認知障害を高めることを明らかにしている。さらに、ミエリン異常が原因か結果かをさらに明確にするために、ミエリン毒による異常の誘導、あるいは多発性硬化症モデルによるミエリン障害とADモデルを組みあわせ、ミエリン異常誘導後にアミロイドプラークの上昇が起こること、すなわちミエリン異常がアミロイドプラーク形成の原因になり得ることを明らかにしている。
次にミエリン異常がアミロイドプラーク形成を高めるメカニズムを探索するため、ミエリン異常の起こった神経を調べると、アミロイド前駆体を切断するBACE1やγシクレターゼの発現が高まっていることを発見する。すなわち、アミロイドβの生産上昇がミエリン異常で誘導される。
これに加えて、ミエリン異常マウスではアミロイドプラーク周りのミクログリア浸潤が低下しているが、これがミクログリアがミエリン処理の方向に向いた結果、プラーク処理能力が低下していることを明らかにする。
以上の結果から、神経細胞ではミエリン形成阻害によりBACE1やγシクレターゼが上昇、この結果アミロイド蛋白質が切断され、プラーク形成が促進すると同時に、それを処理するミクログリアがミエリン処理に動員され、アミロイドプラーク除去まで手が回らない結果、Aβの蓄積が促進されると結論している。
以上まだまだマウスの段階だが、一つの可能性として老化がなぜADリスク要因になるかがうまく説明されていると思った。