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6月20日 ヒストンのセロトニン化によるアストロサイトの転写調節(6月14日号 Science 掲載論文)

2023年6月20日
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アストロサイトが神経細胞のシナプス結合を調節しているのはよく知られている。すなわち、神経活動をモニターしながら、活動に合わせてシナプス機能を調節することで、ニューラルネットの“重みづけに”寄与している。

今日紹介するテキサスのベーラー大学からの論文は、神経活動により起こるアストロサイトの変化を網羅的に解析する中で、セロトニンによるヒストン修飾がアストロサイトによるGABA分泌とそれによるシナプス活動調節に重要な役割を演じていることを明らかにした研究で、6月14日号 Science に掲載された。タイトルは「Induction of astrocytic Slc22a3 regulates sensory processing through histone serotonylation(アストロサイトで誘導されたSlc22a3はヒストンのセロトニン化を通じて感覚過程を調節する)」だ。

この研究では化学物質で神経特異的に興奮を誘導した時、それをモニターした近くに存在するアストロサイト側の変化を丹念に調べ、遺伝子発現の変化からSox9やSox2の標的遺伝子への結合が5️0%ほど高まることを発見する。残念ながらなぜ神経活動によりこの現象が起こるのかについては、明確ではないが、臭いを嗅がせた後嗅覚中枢で調べると、同じ現象が起こっていることを確認している。

次に、Sox9により転写が高まる遺伝子の中から、様々な条件をクリアーする遺伝子を探索し、変化が見られる様々な分子の中から、最も大きな変化が見られたセロトニンやグルタミンなど神経伝達物質を吸収するトランスポーター分子Slc22a3にフォーカスしてその後の実験を進めている。

おそらくアストロサイトのプロには、あとで説明するヒストンのセロトニン化とSlc22a3による細胞内セロトニン量の調節の関係が見えていたのだろう。ともかく、まずSlc22a3遺伝子をアストロサイト特異的にノックアウトしたマウスを用いて調べると、臭いを求める行動や、臭いの区別能力が強く抑制される事がわかった。また、電気生理学的、あるいは形態的にノックアウトマウスのアストロサイトを調べると、興奮性が低下し、形態の複雑性も低下している事がわかった。すなわち、アストロサイトによる嗅覚中枢でのシナプス接合調節機能を維持するための調節に、セロトニントランスポーターが関わる事がわかった(グルタミントランスポーターでもあるが、グルタミンがこの反応に関わらないことは確認している。)。

次の課題はSlc22a3のアストロサイトでの機能になるが、形態変化まで起こる大きな変化から考えると、様々な遺伝子のエピジェネティックな変化が起こっている事が想像できる。これに合致した概念がヒストンのセロトニン化による様々な遺伝子発現の変化で、Slc22a3遺伝子ノックアウトされたアストロサイトと正常アストロサイトで比べると、セロトニン化されたヒストン量の低下が観察される。すなわち、神経活動をモニターした結果、Sox9の機能が高まり、ついでSlc22a3分子発現調節が上昇することで、細胞内のセロトニン量が高まり、セロトニン化されたヒストンの量が調節上昇するというサーキットが明らかになった。

セロトニン化ヒストン上昇は、様々な遺伝子発現に影響するが、中でもアストロサイトのGABA合成経路に大きな影響があり、Slc22a3ノックアウトされたアストロサイトではGABA分泌が強く抑制される。このサーキットを確かめるため、セロトニン化できないヒストンを発現させると、GABA合成経路の分子の発現が低下することを確認している。この結果アストロサイトのGABA分泌が低下し、シナプスの緊張性が低下、神経伝達が変化する事が明らかになった。

最後にセロトニン化できないヒストンを発現したマウスを用いて、嗅覚中枢でのアストロサイトのGABA産生だけでなく、形態も変化し、この結果嗅覚機能の低下が起こることを明らかにしている。

ヒストンがセロトニン化されることは、初耳と思っていたが、実際には2回もこのHPで紹介したらしい。忘れては驚くを繰り返しているようだが、研究もグランドストーリー解明に向けた論理的かつ時間をかけた大変な研究で、大いに楽しみ勉強になった。

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