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6月11日 グリオーマに対するIDH阻害剤の治験(6月4日 The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2023年6月11日
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グリオーマは様々なタイプに分かれ、その中のグリオブラストーマは10年生存率が2.6%と最悪の腫瘍と言える。従来グリオーマの分類は、病理診断に基づいていたが、ガンのゲノム研究が進んで、変異遺伝子をベースに分類する事が進んできた。この過程で浮かび上がってきたのが isocitrate dehydrogenase 1 or 2酵素の変異を持つグループで、この中にはグリオブラストーマは含まれない。代わりにこれまでWHO分類でII or IIIとされていた、比較的進行が遅いグループがこれに含まれる事がわかった。

特にWHO group IIは、平均年齢43歳と若い人に多いグリオーマで、10年生存率は62%と高く、低悪性度グリオーマと名付けられているものの、何度も手術を受ける必要があり、また放射線治療と化学療法というアジュバント治療も副作用により生活の質の低下が避けられない。

今日紹介するスローンケッタリング・ガンセンターを中心とする治験グループからの論文はIDH阻害剤による WHO gorupII グリオーマの第3相治験研究で、6月4日号 The New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Vorasidenib in IDH1- or IDH2-Mutant Low-Grade Glioma(IDH1あるいはIDH2変異の低悪性度グリオーマに対するVorasidenib治療)」だ。

経過が長いgroup II グリオーマは手術後再発までの経過観察期間がある。この間のアジュバント治療については議論が続いており、再発が見られるまで待つことも多い。この経過観察期間を利用して、IDH阻害剤の再発抑制効果を調べたのがこの研究だ。

まず、なぜIDHが発ガン遺伝子として機能できるかについて述べておく。IDH本来isocitrateをαketoglutarateへと変換する酵素だが、変異体はαketoglutarateを2-hydroglutarateへと変換してしまい、ketoglutarate依存的ヒストン脱メチル化やDNA 脱メチル化が抑えられてしまう。この結果、代謝や増殖の大きなりプログラムが起こり細胞の増殖を促す。この過程を抑えるのがVorasidenibになる。

ただ、患者さんは治療までに長い経過を経ているので、脱メチル化によるエピジェネティック変化が元に戻らないのではという懸念があった。

これらの懸念を一掃したのがこの治験で、毎日一回の経口投与で、再発までの期間を11ヶ月から28ヶ月まで延長することに成功している。また、再手術などの次の治療を要するまでの期間でみると、偽薬群では17.8ヶ月だったのに対し、3年経っても8割以上の人が次の治療を必要としないことも分かった。すなわち、発症してからもIDH阻害は十分効果があり、エピジェネティックな状態は良い方向に変化させられる事がわかった。

この研究では、大きな効果に押されて、途中で偽薬群の患者さんにもVorasidenibを投与する治療に切り替えている。すなわち、偽薬との大きな差が明らかになったため、人道的な観点から最後まで治験を完遂することは中止している。初期の目的にこだわらず、このような変化が可能になるのは、FDAが柔軟になってきたことを物語る。

副作用については、変異型特異的のようで、重症の副作用は2%以下に抑えられており、間違いなく臨床に使われると思う。今後は手術後の経過観察期に、偽薬なしに何が起こるのかを臨床の現場で確かめることになると思う。おそらく、エピジェネティックな状態の解析など、新しいデータにより、さらに根治に近づく治療が開発できることを願う。

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