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6月30日 創薬が相分離に出会う(6月28日 Nature オンライン掲載論文)

2023年6月30日
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今や相分離は様々な過程で見られており、かつての様に毎週相分離を扱う研究が発表されるという状況ではなくなった。今日紹介するミュンヘン・ヘルムホルツセンターからの論文は、フェロトーシス阻害剤の作用を調べる内に、薬剤がフェロトーシス阻害分子の相分離を誘導して膜から隔離することでフェロトーシスを促進することを示した研究で、6月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Phase separation of FSP1 promotes ferroptosis(FSP1分子の相分離がフェロトーシスを促進する)」だ。

まずタイトルにあるフェロトーシスをおさらいしておこう。フェロトーシスも基本的には活性酸素により誘導される細胞死だが、鉄イオンの蓄積と過酸化脂肪合成を特徴としており、膜構成成分である脂肪が酸化されることにより細胞膜が破綻することで起こる。そしてこの過酸化脂肪の合成を調節して、フェロトーシスを抑える分子として特定されたのが ferroptosis suppressor protein 1(FSP1) で、ubiquinolを合成、これが過酸化脂肪合成を直接、あるいはビタミンEを介して抑え、フェロトーシスを抑制することが知られている。

変性性疾患ではフェロトーシスを抑えることが重要になるが、特定のガンで抗ガン剤により起こるフェロトーシスについてはFSP1は邪魔になる。そこでガン治療と組みあわせてより強い細胞死を誘導するために、FSP-1 阻害剤開発が行われ、試験管内で効果がある FSP-1 阻害剤は見つかっていたが、臨床応用にはほど遠い状況だった。

このグループもガン細胞のフェロトーシスを促進活性を持つ1万種類の阻害剤の中から、薬剤として使用できる構造を持つ化合物を検討し、最終的に icFSP1 を発見する。

この化合物はGpx4を阻害して誘導したフェロトーシスをさらに促進するが、正常細胞やフェロトーシスが起こっていないガン細胞には効果がない。また、完全にヒト細胞特異的な阻害剤であることもわかった。

次に阻害のメカニズムを調べると、これまで開発された酵素活性阻害剤ではなく、驚くことに FSP1 を相分離により過酸化脂肪合成系から隔離することで作用していることを突き止める。おそらく、このメカニズムによる薬剤はこれが初めてではないだろうか。

最後に、icFSP1 による相分離誘導に必要なFSP1の条件を検討し、FSP1 同士が集まって相分離を起こす部位、及び icFSP1 と結合する部位を特定し、これをヒト型に変えるとマウス FSP1 も同じように相分離を起こすことを示している。

最後に、icFSP1 がガンの増殖を抑えるかどうか調べるため、Gpx4分子をノックアウトしてフェロトーシスを起こりやすくしたガン細胞をマウスに上、icFSP1 のガン抑制効果を調べ、完全ではないが増殖を少し抑えることを明らかにしている。

以上が結果で、この結果だけでは薬剤としてのポテンシャルは測ることは難しい。しかし、相分離させるというオプションが、創薬の標的になることを示した点が最も重要だ。また今後の研究次第でガンや組みあわせる薬剤を選べば、強い効果を示す可能性も十分ある。

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