MECP2重複症については、MECP2遺伝子の発現量を低下させる遺伝子治療が開発中で、期待を持ってみている。一方、Rett症候群に関しては、異常細胞と正常細胞がモザイクになっているので、単純な遺伝子治療は簡単でない。代わりに、MECP2欠損により起こる機能変化を補正する治療が試みられている。これらには、神経増殖因子の一つBDNFの脳内濃度を上昇させる薬剤、IGF-1あるいは活性化ペプチドのような、神経増殖やシナプス維持を直接サポートする分子から、GABA受容体やグルタミン酸受容体に対する薬剤まで、様々な治験が進んでいる。
今日紹介する Acadia 製薬からの論文は、IGF-1から切り出されて作用することがわかっているトリペプチド(グリシンープロリンーグルタミン:Trofinetide)の第3相治験論文で、6月8日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Trofinetide for the treatment of Rett syndrome: a randomized phase 3 study(Rett症候群治療のためのTrofinetide:無作為化第3相治験)」だ。
治験では5歳から20歳までのRett症候群の患者さんを無作為にtrofinetide群93人と、偽薬群94人にわけ、Trofinetidを12週間毎日経口投与、12週目の症状を総合的に偽薬群と比較して、評価を行っている。
結果はおそらく期待以上で、年齢を問わず、12週目で偽薬群と比べ、運動機能、知能、反復運動など様々な指標でtrofinetid投与群は症状の悪化をかなり止めることが出来る。
年齢で分けてみると、介護者によるスコアは若いほど効果が見られるが、臨床医による診断では年齢を問わず進行を止められているので、期待が大きい。
また障害度が高いほど、効果がはっきりするので、この点も既に発症した患者さんへの治療としては期待できる。
一方、ほとんどの患者さんで下痢がみられ、またかなりの割合に嘔吐も見られる。ただ、重篤な副作用ではなく、マネージ可能であると結論している。
以上、経口投与出来る点も含めて、大きな進展だと思う。一方で、IGF-1は正常細胞にも一定の影響が考えられるので、長期投与で新しい副作用が出るのかは今後の課題になる。これに、BDNFの方も合わさってくると、Rett症候群のマネージメントは大きく変わるように思う。