一人ではなく、他の人との社会的交流を求める事が、人間の成長には欠かせない。このようなsocial reward learningと呼ばれる心理的傾向はconditioned place preferenceという方法で測る事ができる。ネズミを用いるモデル実験の場合、他のマウスとたたとえば赤い部屋で1日過ごさせ、次に一匹だけで黄色い部屋に1日過ごさせた後、赤と黄色の二つの部屋があるケージに入れた時、他のネズミと過ごした赤い部屋を選ぶ確率を調べる方法だ。面白いことに、このようなSocial reward learning能力は年齢とともに低下し、成長するとある意味で頑固になる。
今日紹介するジョンズホプキンス大学からの論文は、Social reward learning能力が、幻覚剤を使うと大人になってももう一度引き出す事ができることを示し、そのメカニズムを調べた研究で、6月14日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Psychedelics reopen the social reward learning critical period(幻覚剤はsocial reward learning が可能な重要な時期を再開する)」だ。
このグループは、conditioned place preference法を用いて、さまざまな薬剤の影響を調べてきており、2019年にはオキシトシンが新たなsocial reward learningを可能にすることを示している。このように、social reward learningについてはこれまで、個々の薬剤について研究が行われてきたが、このグループは、social reward learning能力を再開できる薬剤の多くが幻覚剤であることに気づき、幻覚剤共通の生理学的メカニズムがあるのではと考え、シロシビン、ケタミン、LSD、ibogainについて調べると、いずれも失ったsocial reward learningを再開させる事ができる。
ケタミンの場合は、学習可能な時間は48時間と短いが、他の幻覚剤は2週間を超えて持続することから、一度の投与で神経の可塑性が大きく持続的に変化している事がわかる。そこで、幻覚剤投与後、social reward learningを脳スライスで薬理的に誘導する方法を用いて調べると、幻覚剤投与を受けたマウスの脳では、生理学的な反応の増強ではなく、シナプス可塑性が全般的に変化していることがわかった。
そこでこの可塑性の変化に関わる共通の分子基盤を探索している。それぞれの幻覚剤は神経に異なる作用を誘導するので、それによる変化を除外した後最終的に残ったのが、シナプス周囲に分泌される様々なマトリックス分子の発現で、シナプスを支える周りの環境を幻覚剤が整えることで、social reward learningを可能にしているという結論になる。
最終的にこれらのマトリックスが本当に可塑性に関わるのかという検討はできていないが、長期にわたる神経結合性の変化は、シナプス携帯にも現れることを思うとある程度納得できる。
神経可塑性を誘導できる幻覚剤共通のメカニズムという目標に向けた研究の進め方が少し強引な気がするが、現在幻覚剤が様々な精神疾患に用いられるようになってきたこと、またsocial reward learningという自閉症スペクトラムを考える時に重要な性質を対象にしている点で、面白い研究だと思った。