7月4日 最初の遺伝子改変ブタ心臓移植手術治療の総括(6月29日 The Lancet オンライン掲載論文)
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7月4日 最初の遺伝子改変ブタ心臓移植手術治療の総括(6月29日 The Lancet オンライン掲載論文)

2023年7月4日
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昨年1月、メリーランド医科大学で、10種類の遺伝子操作をによって、急性慢性拒絶反応を抑え、さらに感染性のウイルスをノックアウトしたブタの心臓が57歳のDavid Bennettさんに移植された。世界初の異種心臓移植と大きな注目を集め、期待通り急性の拒絶反応を乗り越えたブタの心臓が人間で働き続けられることを証明したが、50日目に急性の拒絶反応に見舞われ、移植後60日後に亡くなった。

今日紹介する同じメリーランド医科大学病理からの論文は、この患者さんの治療中及び死後の様々な所見を総合して、臓器が拒絶された原因を探った研究で、6月29日の The Lancet にオンライン掲載された。タイトルは「Graft dysfunction in compassionate use of genetically engineered pig-to-human cardiac xenotransplantation: a case report(コンパッショネート治療として人間に移植された遺伝子改変ブタ心臓の機能異常のケースレポート)」だ。

この治療の経過、剖検などについては昨年の7月、The New England Journal of Medicineに掲載され(vol 387;1)、急性拒絶を完全に抑え込むことに成功し、ほぼ1ヶ月正常にブタ心臓が機能したこと、しかし予期せぬ急性の拒絶反応により、心臓機能が失われ患者さんが死亡するまでの詳しい経過が示された。

この研究では経過中及び死後に行った全ての解析をまとめ、最終的に対応できなかった拒絶反応の原因と対策を明らかにしようとしている。すなわち、予測できなかったことをリストし、次の移植に備える研究と言える。

まず遺伝子改変のおかげで抗体による急性の拒絶反応は抑え込むことが出来、バイオプシーで異常な血管内皮は1%に抑えられていた。しかし、強い免疫抑制剤の量を落とし、さらに低ガンマグロブリン血漿のためにガンマグロブリン投与を行った直後に、浸出液による心臓浮腫と、その後の線維化が進み、心機能を維持できなくなっている。

病理的には心機能変化をもたらせたのは、ブタ心臓内の毛細血管網の破壊で、ほぼ半分の内皮が変性していた。残念ながら、この変化をもたらせた特定の原因を絞ることは出来なかったが、いくつか予想できなかった結果がリストできた。

  1. 完全な免疫抑制を試みているが、移植後20日からミコフェノール酸モフェチルに代えてタクロリムスに切り替えることで、免疫抑制が不十分になった。また、CD40抗体によるB細胞抑制も完全とは言えなかった。このように異種移植での免疫抑制法についてはまだまだわかっていない。
  2. ウイルス遺伝子を完全に除去したとは言え、ブタサイトメガロウイルスやロソウイルスがPCRで観察された。すなわち、遺伝子改変によるウイルス除去は完全ではないことがわかった。その結果潜在ウイルスが移植後再活性化され、血管障害を起こした可能性は否定できない。
  3. これに関して、拒絶がガンマグロブリン治療直後に起こったことは、再活性化されたウイルスへの結合による抗体依存性細胞障害が誘導された可能性がある。従って、ガンマグロブリン療法は避ける方がいい。

以上のことから、次の移植では、

  1. 潜在ウイルスの可能性を徹底的に検証する。
  2. ガンマグロブリン療法は避ける。
  3. CD40など抗体と様々な免疫抑制剤を組みあわせた、至適免疫抑制法を開発する必要がある。

を重点的に調べる必要があることを述べている。

次の移植がいつになるかはわからないが、臨床で1例から学ぶことの重要性を改めて実感した。

カテゴリ:論文ウォッチ