久しぶりに古代DNAを用いた考古学研究を紹介する。ボルドー大学からの論文で、紀元前4850ー4500頃パリ南東100kmに位置するギュルジーのフランス新石器時代発掘現場の墓に埋葬されていた128体の骨を元に推察される当時の家族形態の解析で7月26日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Extensive pedigrees reveal the social organization of a Neolithic community(広範囲の系図によって新石器時代の社会組織が明らかになる)」だ。
これまで墳墓に埋葬された骨のゲノム研究のほとんどは有力者や支配者の家族が多く、一般家族についての研究は希だった。その意味で、この研究は新石器時代の7世代にわたる一般人の系譜を追跡出来た点で大きな意義が存在する。
研究では、ゲノムから測定される親族関係と、埋葬の位置情報、そしてストロンチウムアイソトープを用いる生活場所の推定などを組みあわせ、埋葬された家族の構造と歴史を探っている。一方、有力者の墓と異なり、副葬物はほとんど存在していない。
この場所からは7代にわたる系譜と、それとは異なる5代にわたる系譜、およびこれらの系譜に属さない親子、夫婦、あるいは個人の骨も見つかっている。
考古学の面白さはできるだけ多くの証拠を集め、証拠と証拠の隙間を推理で埋めてストーリーを仕上げる過程で、論文の読者から見ると、あたかもシャーロックホームズの登場する推理小説を読む感じがある。
まず、家族形態は完全に父系家族で、女性は15歳以上になると、この場所から離れて嫁いでおり、一方7世代の全てで母親は他の場所から嫁いできたことがわかる。すなわち、同じ家族出身で15歳以上の女性の骨は同じ墓に埋められておらず、女性の骨は全てこの系譜の外から来ていることがわかる。1例を除いて近親婚は明確に避けられているので、この目的で、一般の家族でも女性は生殖年齢になると、他の場所に移動していたことがわかる。しかし、よく調べると、女性同士のゲノムから近親を示すケースが見られることから、例えばよその村の、しかし同じ家族から2人の嫁を迎えると言うことが行われていたことがわかる。
女性が例外なく他の場所から嫁いできたことは、DNA解析だけでなく、ストロンチウムを用いた生活圏の解析からもわかる。
父系が尊重される規範があったことは、父親と息子の埋葬場所が一番近いことからも推察される。そして、基本的には家族は同じ場所に、また夫婦は隣接して埋葬され、埋葬に明確なルールが存在したことがわかる。埋葬を示す遺物は全く残っていないが、これらの結果は何らかの墓碑が存在してことを示している。
有力者にはよく見られる、同じ配偶者を兄弟が順番に共有して子孫を残すレビラト婚の痕跡は全く見当たらない。そして、一夫一婦が原則になっていることがわかる。
このような家族関係に加えて、それぞれの家族で多くの子供が生殖年齢に達するまで育っており、多くの子供が健康に育つ環境が既に生まれていたことがわかる。
以上が主な結果で、以前紹介した青銅器時代のドイツで見られる家族形態(https://aasj.jp/news/watch/11516)が新石器時代の一般人でも見られることが明らかになった。
今後さらに解析が他の場所にも拡大することで、このルールの普遍性、例外の社会的意義などがわかってくるだろう。ゲノムのおかげで、考古学がますます面白くなってきた。