この歳になって周りを見渡すと、心房細動と診断されアブレーションを受けた友人が何人もいるのが普通ではないだろうか。異所性興奮箇所を本来のペースメーカーから切り離すアブレーションは画期的な治療だが、原理的にも、実際にも再発リスクは高い。従って、より根本的な治療法がないか模索が続けられているが、なかなかよい動物モデルがない。
今日紹介するハーバード大学からの論文は、これまでも利用されてきたHOMERと呼ばれるマウスモデルが人間の心房細動病変とほとんど同じであることを single cell RNA sequencing で確かめ、いくつかの治療可能性を示した研究で、7月14日 Science に掲載された。タイトルは「Recruited macrophages elicit atrial fibrillation(動員されたマクロファージが心房細動を誘導する)」だ。
この研究では、心臓手術を必要とした患者さんの中で、持続的心房細動を持つ方を5人選んで心房組織を採取、single cell RNA sequencing を用いて、心房細動を持たない患者さんの組織と徹底的に比べ、CCR2を発現するマクロファージが局所へリクルートされ、局所で増殖しながらオステオポンチンを発現して、炎症をオーガナイズしていることをまず明らかにしている。
心房細動のリスクファクターとして、加齢に加えて、肥満、高血圧、僧帽弁逆流が指摘されているが、このようなリスクファクターの有無が、炎症をオーガナイズするマクロファージの局所での数と関連していることも確認している。
このように、人間の心房細動組織の特徴を徹底的に調べた上で、次に心房細動モデルとして開発されていたHOMERマウスの心房組織との比較を行い、このモデルマウスが人間の心房細動を反映できているか調べている。
HOMERマウスは、高血圧、肥満、そして僧帽弁逆流を人為的に誘導したマウスで、人間のリスクファクターをマウスに実現したモデルと言える。まずこの方法で心房細動が起こるという事実は、心房細動予防にはこのようなリスクファクターを除去する生活習慣が大事であることが改めてわかる。
期待通り、HOMERマウスの心房でも、CCR2陽性マクロファージが動員され、増殖し、オステオポンチンを分泌して炎症をオーガナイズしている像が得られた。そして炎症により心房に存在するファイブロブラストが活性化され線維化が誘導されることも明らかになった。
このように、HOMERが心房細動モデルとして使えることを確認した上で、最も目立った変化、すなわちCCR2マクロファージの動因と、オステオポンチン分泌について、治療標的になるかを調べている。
マクロファージ特異的にCCR2をノックアウトする、あるいはCCR2阻害剤を投与することで、期待通り心房細動を抑えることが出来る。
また、オステオポンチンを欠損したマウスの骨髄移植を行ったHOMERマウスでは、正常骨髄を移植されたマウスと比べて心房細動が誘導されにくくなる。
以上、オステオポンチンやCCR2をそのまま標的に出来るかについてはまだまだ検討が必要だが、HOMERマウスを心房細動モデルとして用いてこれまでの治療を検証したり、より長期にわたる治療法を開発することも可能かも知れない。