7月26日 A*02:01型HLAを持つ人への耳寄りな情報(7月24日 Cell オンライン掲載論文)
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7月26日 A*02:01型HLAを持つ人への耳寄りな情報(7月24日 Cell オンライン掲載論文)

2023年7月26日
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腫瘍に浸潤してきたT細胞を移植してガンを抑制するTIL治療は、他のガン免疫治療と比べて普及に至っていないが、たまに完璧な効果が得られることがある様で、このHPでも紹介したことがある。この時重要なのは、完璧な効果が得られた症例のガン抗原とそれに対するT細胞を精査して、効果のメカニズムを明確にし、次の治療に生かすことだ。

今日紹介する英国・カーディフ大学からの論文は、ステージ4のメラノーマ患者さんを完全寛解させ、10年以上再発のないTIL治療ケースを解析し、成功の秘密を明らかにした一種のケースレポートで、7月24日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Targeting of multiple tumor-associated antigens by individual T cell receptors during successful cancer immunotherapy(免疫治療の成功例では、個別のT細胞が複数の腫瘍関連抗原を認識していた)」だ。

この研究では、移植したTILを保存しており、成功が確認された一人の患者さんで、注入したTILの中のガン抗原特異的キラー細胞を解析、キラー活性の全てがA*02:01型HLA抗原+ペプチドであること、さらにこの患者さんのメラノーマにとどまらず、同じA*02:01型HLAを持っているガンであれば、キラー活性を持っていることを発見する。 すなわち、ガンのネオ抗原ではなく、ガン細胞で発現が高いガン関連抗原に対して反応するT細胞が、この成功の秘訣であることを発見する。

そこで、同じTILからA*02:01型HLAを持つガンに反応するT細胞クローンを樹立し、T細胞受容体が認識するペプチド抗原を探索すると、驚くことに、メラノーマで発現している3種類の蛋白質由来の3種類の異なるペプチドに対して、同じように反応することがわかった。

T細胞受容体とペプチドが結合したA*02:01型HLAとの構造解析を行った結果、配列は異なるがそれぞれのペプチドは構造的相同性を示す、類似抗原であることが明らかになった。それぞれのペプチドは単独で同じT細胞を刺激できるが、不思議なことに3種類同時に加えると相乗効果も発揮する。

そして、この研究のハイライトと言える発見、すなわちA*02:01型HLAを持つ人であれば頻度は少ないが同じT細胞を有しており、さらにメラノーマに限らず、様々なガンでこれらのガン関連ペプチドは発現しており、骨髄性白血病や、慢性リンパ性白血病でも同じようなメカニズムでガンを消失させることが出来た例があることが示された。すなわち、A*02:01型HLAを持っている人は、ガンのネオ抗原でなくても、この3種類のペプチドのどれかをワクチンとして免役することで、様々なガンに対するT細胞を誘導できる可能性が示された。さらには、同じ抗原受容体を導入したT細胞を用意することすら可能だ。

もう一つ驚くのは、移植されたTILが腫瘍が消えた後も長期間持続している点で、ガンとは異なる細胞で少しづつ刺激が続いている可能性があるが、自己免疫の様な副作用はない。

以上、COVID-19感染でも、B*15:01型HLAを持っていると、他のウイルスペプチドとの抗原類似性のおかげで、T細胞免疫が前もって存在しており、感染しても重症化しないという論文が最近発表されていたが、全く同じメカニズムでA*02:01型HLAを持つ人は、複数のガン関連ペプチドに反応するT細胞が準備されており、様々な免疫治療が可能なラッキーな人たちであることが明らかになった。

ちなみにBardに「A*02:01型HLA抗原を持っていると、ガンになりにくいというデータはあるでしょうか。」と聞いてみると、全般的なガン発症リスクが乳ガンで15%、大腸ガンで10%低いことを教えてくれた。

日本人では10%がこのラッキーな集団と言うことになる。この方達向けの特別な予防や治療プログラムが出来ても悪くはない様に思う。

カテゴリ:論文ウォッチ