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1月6日 急性骨髄性白血病の新しい標的:ゲノム検査の重要性(1月3日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年1月6日
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ガンのゲノム解析が始まった頃の驚きの一つは、それまでガンのドライバーとか、抑制遺伝子として馴染みのあった遺伝子のほかに、IDHのような代謝酵素や、SF3Bといったスプライシングに関わる分子の変異が高い割合で発見されたことだ。それから何年も経って、その意味を理解できる様になってきた。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、現在治験が進むSF3Bスプライシング因子阻害剤をさらに有効に活用するための前臨床研究で、1月3日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Splicing modulators impair DNA damage response and induce killing of cohesin-mutant MDS and AML(スプライシング阻害剤はコヒーシン変異を持つMDSやAMLの細胞死を誘導する)」だ。

標的がわかっていると言ってもスプライシングはあらゆる細胞でも働いておりガン特異的ではない。そこで、抗ガン治療の常道と言える異なるメカニズムを標的にしてガン特異性を高めようと考えるのは当然だ。この研究ではその候補として、ガンや白血病で変異頻度が高いコヒーシンに注目した。もともとコヒーシンは分裂時の染色体分離に異常があり、この変異と合わさるとSF3B阻害剤の効果が高まるのではと着想した。

白血病株のコヒーシンをノックアウトしてSF3B阻害剤を加えると、変異のない白血病に対する効果が弱かったSF3B阻害剤の効果が何十倍にも高まることを観察する。ただ、調べていくとこれは変異コヒーシン遺伝子のスプライシングがSF3B阻害剤で変化するわけではなく、コヒーシン変異により誘発されるDNA損傷修復がうまく行かないため、細胞死が誘導されることがわかった。

そこで、阻害剤で誘導されるスプライシング異常分子を調べると、コヒーシン変異に関わらずDNA損傷修復に関わる様々な分子、例えば最も有名なBRCAなどの正常分子がほとんど消失することを明らかにしている。修復機構を機能的に調べると、実際にSF3B阻害剤で修復効率が著しく低下していることがわかる。

もともとBRCA変異のような修復遺伝子の機能異常は、ガンの弱点だとされてきた。SF3B変異でこれを誘導できるなら、コヒーシン変異がなくても抗ガン剤に対する感受性が高まるはずで、この研究でも実際の白血病細胞をコヒーシン変異有無に分けて、SF3B阻害剤と、修復阻害剤や一般の抗ガン剤と組み合わせて効果を見ている。コヒーシン変異のある場合だけ、SF3B阻害剤の治療効果が見られるという結果で、遺伝子検査の上で治療を行うことの重要性を示している。

あとはSF3B 阻害剤投与の第一相治験に参加した患者さん3名の末梢血について RNAsequencing を実施し、白血病細胞株でみられたのとほぼ同じ、DNA損傷修復に関わる分子のスプライシング異常が誘導されていることを確認している

以上の結果から、SF3B阻害剤の効果は主にDNA損傷治癒に関わる遺伝子のスプライシング異常を誘導することで発揮されるが、これに加えてDNA損傷が高まる変異を持つ変異が加わることでその効果はさらに高まることが示された。

この様に、様々な治療薬を組み合わせるガン治療はこれまで以上に重要になるが、このためには患者さんのガンゲノムを調べて治療計画を行うことが必須になる。この点で我が国は圧倒的に後進国だ。今日、友人の一人が食道ガンで亡くなった。相談されたとき、主治医に私費でガンゲノム検査をしたいので切除組織の一部を分与してもらう様アドバイスした。残念ながら大学病院であるにも関わらず、その申し出は意味ないと拒否された様だ。しかし、抗がん剤治療だけでなく、免疫治療に関しても、ゲノム検査はますます重要になる。そして、ガン特異抗原の有無などは、一般的なオンコパネル検査ではわからない。一方、変異の情報処理については、大規模言語モデルの出現でますます一般化されつつある。その意味で、我が国のガンゲノム検査を、根本的に見直す必要がある。そのとき、検査は民間主導にすることが重要だ。

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