過去記事一覧
AASJホームページ > 2024年 > 1月 > 28日

1月28日 免疫不全とCovid-19(1月24日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年1月28日
SNSシェア

Covid-19パンデミックが始まった頃、この感染症のさまざまな病態が報告された。中でも興味をひいたのが、ほとんど無症状だが何ヶ月もウイルスを排出し続けた免疫抑制治療を受けている患者さんの症例で(https://aasj.jp/news/watch/14412)、この間に一人の個人からさまざまな変異ウイウイルスが分離されるという事実だった。その後、異次元とも言える変異を重ねたオミクロン株が南アフリカで分離されると、おそらく免疫不全のエイズ患者さんが多いことがこのような変異が発生する原因ではないかと考えられた。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、免疫不全の患者さんがCovid-19に罹患した後の感染経過とともに、患者さんの免疫反応を系統的に調べた研究で、予想通りの結果とはいえ今後のパンデミックに備える点でも重要で、1月24日号 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「SARS-CoV-2 viral clearance and evolution varies by type and severity of immunodeficiency(免疫不全の種類や重症度によりSARS-Cov2のウイルス除去や進化が変わる)」だ。

この研究では、マサチューセッ総合病院でCovid-19陽性と診断された患者さんの中で、免疫不全のグループを抜き出し、さらに免疫不全を、重症の血液系腫瘍や移植治療により誘導される不全(HT)、自己免疫病治療のためのB細胞抑制治療の患者(SA)、そしてそれ以外の比較的軽い免疫不全(NA)に分けて、ウイルス除去過程、Cov2に対する免疫反応などを徹底的に調べている。

まずはっきりしたのは、軽い免疫不全の場合、感染後のコースはほとんど正常と変わらない点だ。B細胞が抑制されるSAグループでは、ほとんどの人は正常と同じコースをとるが、1割ぐらいでウイルスが除去できないケースがでてくる。さらにT/B ともに抑制されるような治療を受けている場合は、半分以上の人でウイルス除去が大幅に遅れ、50日以上ウイルスの排出が続く。

そして予想通り、長期間ウイルスを排出する患者さんでは、ウイルスの点突然変異の数が明確に上昇する。すなわち、変異ウイルスの発生元になることが確認された。この結果ウイルス感染が持続する重症の免疫不全がある場合でモノクローナル抗体治療に対する耐性が生じやすい。すなわち治療抵抗性のウイルス発生元になる。

この臨床結果が、免疫不全による結果かどうかを確認するため、最後に重症の免疫不全、軽症の免疫不全、そして正常人について、感染後の抗体反応を調べると、予想通り重症免疫不全患者さんでは感染後も抗体反応が上がらない。

最後に、T/ Bが抑制されたHT、B細胞が抑制されたSA別々に、末梢血T細胞のスパイクタンパク質に対する反応を調べると、HTグループだけで、抗原により誘導されるインターフェロン分泌が抑制され、さらに抗原に対する増殖反応がほとんど消失していることを確認している。

結果は以上で、免疫抑制治療を受けているのだから当たり前の結果といえばそれだけだが、改めて確認できたことが重要だと思う。すなわち、パンデミックで免疫不全の患者さんを守ることは、患者さんを守るだけでなく、変異ウイルスの出現を抑えて社会を守ることにつながることがはっきりした。

実際、コロナ感染が今後も続いていくことを考えると、免疫不全の患者さんへの感染予防は今も重要な課題として残っていると言える。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年1月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031