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1月9日 新しいメカニズムの抗生物質の開発(1月3日 Nature オンライン掲載論文)

2024年1月9日
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多剤耐性菌による院内感染は医学の重要な課題で、そのためにはこれまでとは異なるメカニズムの抗生剤の開発が必要で、多くの企業がしのぎを削っている。

今日紹介するロッシュ研究所からの論文は、LPSを細胞壁へ輸送する過程を阻害するこれまでとは全く異なるメカニズムの環状ペプチドの開発で、1月3日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A novel antibiotic class targeting the lipopolysaccharide transporter(リポポリサッカライド輸送系を標的とする新しいクラスの抗生物質)」だ。

大晦日に、中外製薬研究所独自の環状ペプチドライブラリーを用いた K-Ras阻害剤開発の話を紹介したが、もともと微生物から分離した薬剤のなかにはサイクロスポリンやバンコマイシンのような環状ペプチドが存在する。このことから、さまざまなサイズの環状ペプチド、あるいはそれにアミノ酸以外のジョイントが結合したテザード環状ペプチドライブラリーを合成して提供するベンチャー企業が存在し、この研究ではこの会社から45000種類のライブラリーを購入し、さまざまな細菌でスクリーニングした結果、多剤耐性菌にも作用する化合物を発見する。

この化合物は3種類のアミノ酸が diphenyl-sulfide で環状になったテザード環状ペプチドで、ここから耐性菌の代表 A. baumannii への効果が高まった化合物をアミノ酸の置換や側鎖の改変により開発している。

この化合物は感染動物の治療に効果があるが、LDL を沈殿させる副作用があり、濃度が高まると致死的になる。そこで、LDL沈殿活性が低下した化合物を、さまざまな情報をもとに改変して、最終的に LDL沈殿作用のない zosurabalpin の開発に成功した。

あとは、zosurabalpin がこれまでの抗生物質とは異なる作用機序であることを示すため、まず zosurabalpin が結合するバクテリア分子の同定を行い、プラズマメンブレン上に存在する LPS を細胞壁へと移行させる分子コンプレックスに結合し、実際この輸送系の機能を阻害することを明らかにしている。すなわち、これまで全く標的になっていなかった過程で、多剤耐性菌についても効果が期待できる。

この研究は薬剤の開発で終わっているが、同じ時に発表されたハーバード大学からの論文は、LPS が結合した輸送タンパク質に結合することで輸送が阻害され、一種の通行止め状態が誘導され、細胞壁の維持形成ができなくなることを示している。

以上が結果で、多剤耐性対策も一息つけるかもしれない。また、なんとなく環状ペプチドへの注目がますます高まっている気がする。

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