細胞分化の経路をたどると、NK細胞と樹状細胞がともに同じ前駆細胞から分化してくるケースがある。さらにこれらはリンパ球の前駆細胞ともつながっていることから、共通の前駆細胞がどのプログラムを発現し、またどの増殖因子に出会うかにより、それぞれの分化が決まっていく。
今日紹介するロサンゼルスにあるシティーホープ国立医療センターからの論文は、2型自然リンパ球が樹状細胞としてだけでなく、キラー細胞として白血病で働いていることを示した研究で、1月10日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Therapeutic application of human type 2 innate lymphoid cells via induction of granzyme B-mediated tumor cell death(ヒトの2型自然リンパ球はグランザイムBを介する細胞死誘導能で治療に利用できる)」だ。
タイトルにある自然リンパ球とは抗原受容体を発現しないリンパ球で、NK細胞や樹状細胞の一部がこれに相当する。この研究では、中でも炎症に関わるとされている2型自然リンパ球(ILC2)を詳しく調べるため、まず末梢血から ILC2 を増幅する方法の開発に挑戦している。
結論的にはOP9ストローマ細胞上で IL2、IL15、IL7とともに培養し、その後 ILC2 をソーティングして今度はサイトカインだけで培養すると、ほぼ100%近い ILC2 を増幅することが可能になっている。
この細胞を急性骨髄性白血病(AML)細胞株と培養すると、強い細胞症が威勢を示す。さらに、ガンを移植したマウスに ILC2 を注入するとガンの増殖を抑制することが出来る。
この細胞傷害性のメカニズムを調べていくと、なんとキラー細胞が発現するグランザイムBを分泌し、ガン細胞をピロトーシスやネクローシスに陥らせることで傷害していることがわかった。さらに、キラー活性は、NK細胞も発現する DNAM-1 がガンの発現する CD112 や CD155 により刺激され、そのシグナル下流で FOXO1 の転写活性が抑制されることで、グランザイムBが発現することを示している。
主な結果は以上で、あとはこのシステムが実際に働いているかどうかを、臨床例の解析などで行うとともに、この治療を臨床応用するために実行可能な介入法を探っている。
驚くことに、マウスILC2 は全くグランザイムBを発現できないので、これはヒト特異的な治療になる。そして、CD112 や CD155 を発現しておれば白血病でなくてもどのガンでも応用できる。
さらに、現在 CD112R に対する抗体治療の臨床応用が進んでいるが、これにより DNAM-1 刺激自体が強められることから、抗体治療とともに新しい方法で増殖させた ILC2 を注入する治療法は期待できる。また同じリガンドCD155は刺激と同時に DNAM-1 発現を抑制するので、これも治療対象になる。
このように特異性はないが、ILC2型の樹状細胞を増殖させガン治療に利用する可能性が現実を帯びてきたと期待できる。