母乳は乳児に栄養を与えるだけでなく、抗体を通して免疫を高め、さらにオリゴ糖など様々な分子で腸内環境を整える。従って、母乳に完全に代わる成分を含んだ人工乳を作るのは簡単でない。
今日紹介するジョンズ・ホプキンス大学からの論文は、母乳の予想外の複雑性を明らかにした面白い論文で、1月18日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Complement in breast milk modifies offspring gut microbiota to promote infant health(母乳中の補体は新生児の腸内細菌叢を変化させて健康を増進する)」だ。
この研究では齧歯類の消化器感染症を引き起こすCitrobacter rodentium(CR菌)感染がC3やC1qのような補体成分が欠損したマウスでは重症化することに興味を持ち、追求している。
新生児特異的なので、育ての母親を代えたりする様々な実験を繰り返し、この現象が母乳から補体成分が供給されるかどうかで決まっていることを発見する。実際、補体成分が欠損した母乳で育った子供は、腸内細菌叢でも正常と比べると大きく違っている。さらに、このように異なる腸内細菌叢を補体成分の欠損した無菌マウスに移植して感染実験を行うと、補体成分欠損母乳で育った細菌叢はCR菌の感染に強い感受性を示す。すなわち、母乳の補体成分なしで育った腸内細菌叢はCR菌感染を防げない。
次にこの細菌叢活性の差を生み出す菌を探索して、ついに子宮内膜炎の原因としても知られるグラム陽性菌 Staphilococcus lentus を特定する。すなわち、母乳に補体が含まれないと、この菌が増加し、細菌叢も変化させCR菌感染への抵抗力が低下する。
最後に補体が Staphilococcus lentus を殺すメカニズムを調べ、抗体の作用ではなく、直接C1qが細菌膜表面で活性化され、膜上に補体成分が集まった孔を形成することで、細菌を殺していることを明らかにする。
以上が結果で、母乳中の補体成分が新生児の消化管感染を防いでいること、しかも抗体の助けを借りず、直接特定の細菌を殺すことで細菌叢の質を上げていることなど、母乳の複雑さを改めて理解する研究だった。