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1月11日 CRISPR/Cas10+Cam1=完全免疫 (1月10日 Nature オンライン掲載論文)

2024年1月11日
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CRISPRシステムの面白いのは、細菌が外来のウイルスやプラスミドから自分を守るための様々な戦略を開発している点だ。最も良く使われているのは Cas9 で DNA二重鎖を切断するので、ゲノム編集に用いているが、他にも特定の RNA を分解したり、Cas10 のように活性化されると手当たり次第に一本鎖核酸を分解する種類など実に多様で、これが様々な使用アイデアを産んでいる。ただ、これまで研究されてきたのはその核酸分解酵素活性だった。

ところが今日紹介するロックフェラー大学からの論文は、Cas10 を含む3型クリスパーシステムに存在するもう一つの遺伝子Cam1 が膜に穴を形成して脱分極させるという面白い機能が存在することを示した研究で、1月10日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The CRISPR effector Cam1 mediates membrane depolarization for phage defence(クリスパー関連分子の一つ Cam1 は膜の脱分極を通してファージウイルス感染に抵抗する)」だ。

これまでの研究で3型クリスパーの Cas10 が一本鎖RNAを切断するとき、Palmドメインで環状のオリゴアデニル酸を合成する。これが cAMP のようなセカンドメッセンジャーとして細胞の増殖を止める働きをすることがわかっていた。

この研究ではオリゴアデニル酸合成と細胞増殖停止に Cam1 が関わるのではと考え、まず Cas10 の存在しない細菌の Cam1 を分離、これをブドウ球菌に導入し、その機能を調べている。

まず、Cam1 とオリゴアデニル酸が結合すること、そしてこの結合により細胞の増殖が停止、一定期間静止期のまま生存できることを明らかにする。

次に、Cam1蛋白質の構造解析から、この分子が通常4量体で細胞質に存在し、Cas10 の働きでオリゴアデニル酸が合成されると、これと結合して細胞膜へと移行して細胞膜に小さなチャンネルを形成することで、細胞膜を脱分極させ、これが細胞の分裂を止めることを明らかにする。

通常この穴は十分小さく、細胞死の測定に使う PI 色素は糖鎖がないため、細胞は PI で染まらず、実際増殖を止めたままオリゴアデニル酸が消失すると、再増殖が可能になる。

最後に、Cas10、Cam1 それぞれ別々、あるいは同時に発現するブドウ球菌を用意して、ファージウイルス感染抵抗性を詳しく調べ、ウイルスが感染すると、Cas10 がまずウイルス核酸とともに、近くの一本鎖核酸をズタズタにすることでウイルスの増殖を防ぐ。この時、環状のオリゴアデニル酸が合成され、これが Cam1 4量体と結合して活性化、膜移行を誘導することで、細胞膜を脱分極させ、細胞分裂を止めることで、ウイルスの拡散を防いでいることがわかった。

我々も、バクテリアを感知する自然免疫系がカスパーゼを活性化、それにより切断されたガスデルミンが細胞膜に穴を形成、それを通して IL1 が分泌されるシステムを持っているが、似ていると言えば似ている。

おそらく、このシステムを哺乳動物細胞へ移して面白い細胞エンジニアリングを可能にする技術が既に用意されているように思う。クリスパーの輪はどんどん拡がりそうだ。

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