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1月21日 リキッドバイオプシーの感度を上げるためにリポソームやDNAに対する抗体をあらかじめ注射する(1月19日号 Science 掲載論文)

2024年1月21日
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リキッドバイオプシーとは、末梢血・血清中に存在するDNAの中から、体内に存在するガン細胞などの痕跡を捕まえようとする技術で、検査自体が簡単なので診断や経過観察などで大きな期待を集めてきた。開発からずいぶん時間が経っているが、普及は進んでいない。その最大の理由は感度の問題で、ステージ1のガンを見つける確率は40%程度で、進行ガンでも診断できないケースが多くある。また、経過観察中にネガティブと診断しても、75%が再発したという報告もある。したがって、この検査の普及のためには、感度を上げることが必須だが、現在のところは決め手がない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、検査の感度を上げるという従来の考え方から発想を変えて、血中に放出されたDNAの分解や処理を抑えて血中の半減期を伸ばすことで感度を上げる可能性を追求した研究で、1月19日 Science に掲載された。タイトルは「Priming agents transiently reduce the clearance of cell-free DNA to improve liquid biopsies(細胞から遊離したDNAの除去を一時的に抑える因子はリキッドバイオプシーの感度を改善する)」だ。

この研究の発想は、極めてストレートだ。血中のDNAが除去されるのは、肝臓の貪食細胞と結成中のDNA分解酵素なので、この機能を体内で阻害すれば血中のDNA濃度が一過性に上がるはずだと考えた。

肝臓の貪食細胞の機能をブロックする方法としてリポソームのナノ粒子を使う方法をマクロファージ細胞株で検討し、DNAが含まれるヌクレオソーム断片は貪食される一方、バクテリアなどの貪食能には影響ないことを明らかにする。

その上で、マウスにナノ粒子を静脈注射し、30分後には血中にフリーに存在するDNAの濃度がなんと80倍近く上昇すること、そしてこの影響は5時間でほぼ完全に消滅し、一過性であることを示している。

次に、同じ実験を自己免疫病マウスから樹立したDNAを認識する自己抗体を注射して行うと、期待通り一過性に血中のフリーDNAがDNA分解酵素から守られて増加すること。さらに、Fc受容体と反応できなくした抗体であれば、血中のフリーDNAをさらに上昇させられることを示している。

あとは、移植ガンモデルでそれぞれの方法がガンの検出感度を上げることを示している。また、ガン特異的遺伝子の検出だけでなく、ガンゲノムを血中のフリーDNAから解析する精度が一段と上昇し、ガンゲノムに散財する一塩基変異の検出感度が、100倍以上上昇することも明らかにしている。

それぞれの方法はメカニズムが異なるので、両方同時に使えばさらに感度を上げられるのではと期待するが、不思議なことに両方を組み合わせた実験は行なっていない。

以上が結果で、顕微鏡の解像度を上げるために、組織自体の大きさをゲルで膨らませるという発想に近い。ただ、一過性とはいえリポソームやDNAに対する抗体を、しかもかなりの量検査のために注射することが許容されるためには、かなり時間がかかりそうに思う。

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