通常アルツハイマー病(AD)は、遺伝的要因が強いグループと、特別な遺伝性が明確でない散発的グループに分けられるが、最近になって医療で使われた材料に紛れ込んでいたβアミロイドがプリオンのように伝搬して発生するケースが存在することが指摘されるようになってきた。
多くの報告があるのは、子供の頃の開頭手術時に、死体由来の硬膜が使われたケースで、この場合はCerebral Amyloid Angiopathy(CAA)と呼ばれる血管にアミロイドが沈着するタイプで、一般の AD とは全く症状が異なる。
ところが今日紹介する英国医学研究センターからの論文は、小児期にさまざまな理由で、ヒト下垂体から調整された成長ホルモンを投与された中に、CAAとは異なる脳内実質にアミロイドβ が沈着する AD が発生する可能性を示した研究で、1月29日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Iatrogenic Alzheimer’s disease in recipients of cadaveric pituitary-derived growth hormone(死体由来の下垂体から調整した成長ホルモン投与に起因すると考えられる医原性のアルツハイマー病)」だ。
このグループは、以前成長ホルモン投与に起因すると思われるプリオン病で亡くなった患者さんが βアミロイド沈着を併発していることに気づいて、βアミロイドもプリオン型になると AD を起こすのではと研究を進め的ている。
今回は2017年から2022年に AD と診断された患者さんで、様々な理由で成長ホルモン治療を受けていた8例を特定し、報告している。
まず成長ホルモンだが、8例全てで様々な調整法で抽出されるなかでも、Wilhelmi or Hartree modified法を用いて大量に調整されたバッチを使っていることがわかった。
散発的ADと比較したとき、まず発症が38歳から56歳と若い。一方、成長ホルモン治療後の経過時間は33-44年と比較的狭い範囲で起こっており、成長ホルモン治療に起因する可能性を示唆している。
症状では、健忘に加えて行動異常、遂行障害、さらに言語障害が早くから現れる点で散発的ADとは異なる。
また剖検例でみると、新皮質に広くアミロイド斑が見られケース、あるいは脳全体に広くアミロイド斑が見られるケースが特定され、ADでの特徴的分布とは明らかに異なる。
以上が結果で、論文の多くの部分を成長ホルモン以外の原因は考えられないかについての議論に費やして、最終的に今回示されたケースは特別な方法で人間の下垂体から抽出された成長ホルモンが原因であると結論している。
我が国でも死体由来の成長ホルモンは使われた時期があるが、どの抽出法化までは把握していない。ただ、プリオン病の発症の報告がないと言うことで、問題にされていないが、これとは別に AD 発症の可能性があると、一度調べ直すのも重要かと思う。