6月14日 残留磁気を用いた短い間隔の時間計測を考古学に応用する(6月5日 Nature オンライン掲載論文)
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6月14日 残留磁気を用いた短い間隔の時間計測を考古学に応用する(6月5日 Nature オンライン掲載論文)

2024年6月14日
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考古学での時代計測には科学の粋が集められているように感じる。最も有名なのは有機物の炭素アイソトープの減少を用いた方法で、カバーする範囲から人類の歴史を調べるのに適している。一方考古学で重要になる人間の活動が残った痕跡を調べる方法として、加熱による放射線エネルギーの変化を利用して、最後に加熱された時期を探るルミネッセント法などが知られている。ただ、これらの方法を1万年以上前の旧石器時代に利用しようとしても、区別できる時間解像度が500年単位になってしまい、例えば繰り返し使われた洞窟内での活動の時代測定の制限になっている。

今日紹介するスペインにあるデ・ブルゴス大学からの論文は、高温により残留磁気のパターンが固定されることを利用して、囲炉裏に使われた石の残留磁気を調べて、それが使われた時間を数十年単位で計測した研究で、6月5日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「The time between Palaeolithic hearths(旧石器時代の囲炉裏の使われた時間差を調べる)」だ。

残留磁気を用いて地球磁場の変化を探る研究については知っていたが、この残留磁気が熱によって固定されることを利用して、岩石が熱に晒された時間を推定する方法があることは全く知らなかった。

この研究では、ネアンデルタール人によって繰り返し使われた El Salt 洞窟 UnitX で発見された5カ所の囲炉裏跡が使われた時代関係を、この方法を用いて解析している。といっても、私には測定の具体的イメージほとんどないので、ちょっと調べてみたが、サンプルを調製した後、熱をかけたり、磁場を消去したり、大変な作業を有する測定だ。そして、その地域の地磁気の変化と照合して時代測定を行っている。

実際には使われた絶対的時間を測定するのではなく、残留磁気から5カ所の囲炉裏の間の時間差を調べ、これらは250年程度の時間で順番に作られたもので、それぞれは数十年ー100年程度の時間差で順番に作られたことを明らかにしている。すなわち、人間の寿命レベルの時間的違いで、囲炉裏が新たに作られたことを意味している。

以上が結果の全てで、わかったことはこれ以上でも以下でもない。200年というと鎌倉幕府より長い時間だが、その間にネアンデルタール人で何があったのか、同じ地層の他の遺物を比べないと、この発見の意味を知ることは難しい。ただ、火を使うという人間特有の行動を利用すると、少なくとも鎌倉幕府をさらに5つの時代に分けることができるようになったことから、旧石器時代の歴史がさらに詳しく分析できそうな期待はある

カテゴリ:論文ウォッチ