6月28日 ピロトーシスにより遊離される生理活性物質を探る(6月26日 Nature オンライン掲載論文)
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6月28日 ピロトーシスにより遊離される生理活性物質を探る(6月26日 Nature オンライン掲載論文)

2024年6月28日
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細胞の死に方の多様性にはいつも驚かされる。回りに影響がないようひっそりと細胞死が進行し、マクロファージにより処理されるアポトーシスから、元々炎症と深く関わり、細胞膜に大きな穴を開けて、細胞内の様々なメディエーターを放出して周囲組織を組織化するピロトーシスまで存在しており、そのメカニズムの精緻さに驚かされる。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、炎症により誘発されるピロトーシス進行中の細胞から分泌されるこれまで記載されなかったメディエーターを探索する研究で、6月26日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Oxylipins and metabolites from pyroptotic cells act as promoters of tissue repair(ピロトーシス細胞から分泌されるオキシリピンと代謝物が組織修復を誘導する)」だ。

ここでピロトーシスのおさらいをしておこう。ピロトーシスは3段階から構成されている。まず、細菌など炎症誘導物質により TLR をはじめ様々な経路を介して、細胞内にインフラマゾームを形成する過程と、インフラマゾームによるカスパーゼの活性化、そしてカスパーゼによるガスデルミン切断を介する細胞膜上の大きな穴の形成と、カスパーゼによる IL-1β など炎症メディエーターの活性化と分泌だ。要するに、細胞を殺すとともに、炎症シグナルをさらに増幅する用設計されている。

ただ、IL-1β 以外にもピロトーシスから分泌されるメディエーターが存在するのではないかと、探索が続けられていた。この研究ではガスデルミン(GSD)活性化による細胞膜の孔は形成されても、IL-1β の活性化が起こらないマクロファージを刺激してピロトーシスを誘導したときに、培養上清に分泌されるメディエーターをクラシカルな方法で探索している。

ピロトーシスを誘導したマクロファージの上清を活性化前のマクロファージに添加すると、期待通り多くの遺伝子発現の変化が起こる。特に、細胞の増殖、移動、そして組織修復に関わる遺伝子の発現が高まる。すなわち、IL-1β 以外のメディエーターが存在する。一方、メディエーター分泌悦が活性化されたマクロファージでは脂質代謝、特にプロスタグランジンなどのオキシリピン合成経路が高まっていることも確認している。

熱を加える試験などから、このメディエーターはタンパク質ではないと確認してから、網羅的脂質検索を行い、期待通りプロスタグランディンE2 (PGE2) を含むオキシリピンが分泌されていることを発見する。また、PGE2 合成経路に焦点を当てた阻害実験から、PGE2 などのオキシリピンは、炎症刺激により新たに合成されることを明らかにし、IL-1β 以外にも、まさに炎症のメディエータの本流ともいえる PGE2 などがピロトーシスに関わっていることを明らかにする。

次に、皮膚損傷治癒過程にピロトーシス上清を添加する実験を行い、修復速度が促進すること、この過程に上清で刺激された白血球から分泌される IL-27 が関与することを明らかにしている。しかし、PGE2 は損傷治癒促進効果の 50% を説明できるだけで、おそらく細胞内から分泌される他の代謝物も関わっていると考えられる。事実、残りの効果は、ただ細胞が死んでしまうネクローシス細胞からでる上清でも検出できることから、様々な代謝物が合わさって、PGE2 と協力すると結論している。

最終的に PGE2 以外のメディエーターについては特定できずに終わっているが、凝った実験系を用いてオキシリピンがピロトーシスのメディエーターの一つであることを明らかにしたことは重要だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ