6月18日 ベクター媒介感染細菌と相互作用するホスト分子の網羅的探索(6月13日 Cell オンライン掲載論文)
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6月18日 ベクター媒介感染細菌と相互作用するホスト分子の網羅的探索(6月13日 Cell オンライン掲載論文)

2024年6月18日
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マラリア、トリパノゾーマ、ライム病など昆虫などにより媒介されて人間に感染する細菌類は、今もなお治療が難しく、人間が克服すべき重要な感染症のグループになっている。今日紹介するイェール大学、バージニア大学、フレッドハッチンソンガンセンターが協力して発表した論文は、このようなベクター媒介細菌と直接反応するホスト側のタンパク質を網羅的に調べた研究で、6月13日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「An atlas of human vector-borne microbe interactions reveals pathogenicity mechanisms(ヒトとベクター媒介細菌との相互作用アトラスは病理メカニズムを明らかにする)」だ。

このグループは細菌と相互作用に関わりそうなヒト細胞外タンパク質3324種類を個別に発現している酵母菌を作成し、この酵母菌とベクター媒介菌(VM)を混ぜた後、VM に結合したタンパク質を特定し、その機能を探る研究を行っている。その結果、713のヒト細胞外タンパク質が82種類の VM と相互作用をすることを見つけている。そして、これらのタンパク質が直接実際の細菌とも相互作用していることを確認している。この方法がこの研究のハイライトで、後は一つ一つの相互作用を調べることになる。この研究でもその一部だけが解析されているが、今日はその中から面白い例をいくつか紹介する。

  1. 細胞外で増殖する細菌と、細胞内で増殖する細菌に結合する分子は大きく異なっている。また、一つの細菌あたりに結合するタンパク質は、細胞外細菌に対するタンパク質の方が数が多い。また、以前に調べた常在菌に結合する細胞外タンパク質の数と比べると、病原菌に対してはより多くのタンパク質が相互作用する。
  2. 多くの菌の中でも、ダニ感染によるスピロヘータが媒介するライム病やツツガムシ病菌と反応するホストのタンパク質は317種類と多い。このスクリーニングで、CD68 分子がツツガムシ病が感染後マクロファージの中に侵入する分子である可能性が示された。さらに、ツツガムシ病菌はエイズウイルスと同じ CXCR4 と相互作用することがわかったが、なんとツツガムシ病への免疫反応が、エイズ感染を防ぐという観察がある。
  3. マラリアのスポロゾイトは様々なサイトカインに関わる分子と結合するが、マラリア感染が強い一種のサイトカインストームを誘導するのと一致する。特に、IL-15 受容体と強く結合することは、サイトカイン誘導のリード役として機能している可能性がある。
  4. レプトスピラ症では、それまで低い浸透圧に存在していた菌が、人間の中で NaCl に触れて大きな変化を遂げ、その結果バソプレシンと結合するようになることがわかった。レプトスピラはブタで腎障害を起こすことが知られており、この相互作用が原因である可能性がある。
  5. ライム病のスピロヘータの中には神経症状を強く起こすタイプが存在するが、これらの菌は神経系に発現されている分子と特にそうごさようをしめす。
  6. さらにライム病は直接 EGF と反応して遺伝子発現を変えることも発見している。特に、人間の身体に入って体温に晒されたときにこの反応が起こることから、この反応を抑えることが感染拡大を抑える可能性がある。
  7. 最後に、細胞内寄生菌の7割以上がディスルフィド基を切断する、イソメラーゼと直接反応すること、またこの酵素を阻害すると細胞内感染が低下することも示している。

以上が面白い例だが、これまで個別に研究されてきたベクター媒介細菌をまとめて調べてみたことで、個別では気づかなかった様々な感染メカニズムが見えてきたという仕事で、派手さはないが重要な研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ