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7月10日 C1q 補体成分は神経細胞に取り込まれ翻訳を調節する(6月27日 Cell オンライン掲載論文)

2024年7月10日
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補体成分の発現異常が統合失調症で存在するという発見以来、補体と神経細胞の関係を研究する論文を見かけるようになったが、補体カスケードの最初を担う C1q に関しても、ミクログリアが分泌してシナプス剪定に関わるという研究を2020年2月に紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/12355)。

しかしこれだけでは終わらないようで、今日紹介するハーバード大学からの論文は C1q が細胞内に取り込まれ、しかもタンパク合成を調節しているというのだから驚く。タイトルは「Microglial-derived C1q integrates into neuronal ribonucleoprotein complexes and impacts protein homeostasis in the aging brain(ミクログリアが分泌する C1q は神経細胞のリボゾームタンパク質と統合され老化した脳のホメオスターシスに関わる)」で、6月27日 Cell にオンライン掲載された。

以前紹介したように C1q は老化とともに脳内に蓄積すること、さらに C1q ノックアウトマウスでは認知機能が保持されることが知られており、この研究もその延長で計画されている。まず、C1q と結合しているタンパク質を探索した結果、驚くことに神経細胞内でリボゾームタンパク質と結合しており、老化とともにその量が上昇することを発見する。

C1q の構造に disorderd region と呼ばれる相分離を誘導するドメインが存在することから、ひょっとしてリボゾームとともに相分離が起こっているのではないかと着想し、試験管内で相分離能を調べると、RNA と結合したときだけ相分離すること、そして実際の神経細胞内でも RNA とともに相分離体を形成しており、RNA を分解するとこの相分離体は解消することを示している。

C1q は神経細胞で合成されないため、外部から取り込まれると考えられる。これを確かめるため、脳内にラベルした C1q を注入する実験を行い、神経細胞のエンドゾームに取り込まれたあと、細胞質へと移動して相分離に関わること、そして disorderd region がこの取り込みに関わることを明らかにしている。

最後に神経細胞内での C1q の機能を調べるため、C1q ノックアウトマウスとの比較研究を行い、1年齢を超えたマウスでは、タンパク質合成がノックアウトマウスでは上昇していることから、C1q は一種の翻訳の抑制機構として働いている可能性を示している。ところが、特定のタンパク質について調べると、シナプスの細胞骨格に関わるセプチン、及びミトコンドリアタンパク質だけは、細胞内の濃度が高まっていることを発見している。

機能的には、これまでの研究と同じで、認知機能は C1q ノックアウトマウスで上昇するため、C1q の蓄積は認知機能を阻害する方向に働くといえるが、恐怖消去試験などでは逆にノックアウトマウスの方が異常を示すので、明確な結論は出せない。

以上、機能的意義についてはよくわからないが、しかしミクログリアの分泌する C1q 分子が神経細胞内に取り込まれ、タンパク質合成の現場で相分離を通して翻訳に影響していることは驚く。マウスと異なり、人間の寿命は長いので、今度はヒトでこの現象の意義を研究することが重要になる。

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