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7月14日 人間の健康を原生動物ブラストシスティスから予測する(7月8日 Cell オンライン掲載論文)

2024年7月14日
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原生動物と人間の関係というと、マラリアやアメーバ赤痢と言った感染症を思い浮かべるが、病原性がないどころか、人間に益をもたらす原虫も存在するようで、今日紹介するイタリアトレント大学を中心とする国際チームからの論文は、ブラストシスティスと呼ばれる、大量に増殖すると消化管症状を起こすことがある病原性の低い原虫の存在が、健康的な生活スタイルのバロメータとして使えることを示した不思議な研究で、7月8日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Intestinal Blastocystis is linked to healthier diets and more favorable cardiometabolic outcomes in 56,989 individuals from 32 countries(腸管のブラストシスティスは健康的な食事とリンクしており、代謝系や循環器の健康増進と関わる可能性が32カ国56989人の研究から明らかになった)」だ。

元々イタリアのコホート研究でブラストシスティスの腸内での存在がグルコース代謝や脂肪代謝の健康度にリンクしていることが明らかにされており、この研究はそれを確認するための共同研究になる。

便を採取して細菌叢を調べた世界中のコホート研究データから、ブラストシスティスゲノムの存在を探し出し、様々な健康指標と相関させたのがこの研究になる。しかし、世界32カ国でこのレベルのコホートデータが存在し、探す気になれば原虫のデータも集められることは素晴らしい。ただ、はっきり言って、データは多様で、一定の相関が検出できても、原因か結果かを示すところにまでには至っていない。

それでも面白いデータが満載で、まず世界分布を調べると、最も感染が多いのがフィジーで、あとはヨーロッパやアフリカが多い。一方、我が国は中国とともに感染者の低い国になる。面白いのは、ヨーロッパに多い原虫と、アフリカに多い原虫が異なる点で、生活スタイルに強くリンクしていることが示唆される。

調べたコホートでは、新生児の便にはブラストシスティスは全く検出されない。従って、成長する間に感染することになるが、人間で見られるブラストシスティスは動物には全く存在しないので、主に家族内で経口的に伝搬していると考えられる。

一卵性、二卵性双生児での感染様態を比べると、ホストの遺伝的要因には全く影響されず、基本的には生活スタイルを共有することが感染を決めていることがわかる。

この研究のハイライトは、いわゆる健康的食事と言われる食事の摂取とブラストシスティスの相関が、世界中のコホート研究で認められていることで、食の健康度の指標として用いられる指標 hPDI を使うと、ブラストシスティスの感染程度と hPDI に正の相関が見られる。

実際に食が原因である可能性を調べるために、食事を改善するコホート研究のデータを調べ直すと、改善することで新たにブラストシスティス感染した人の数が増えたことを示しているが、メカニズムもよくわからないので、このデータだけでは原因か結果かは結論できないだろう。

次に、病気や健康指標との関係を調べている。便の細菌叢を調べた様々な病気に関するコホートでは、ブラストシスティスはほとんどの場合健康コントロール群で多いことから、健康のバロメータにはなっている。

また、BMI など体脂肪や血圧などの健康指標と相関する。ただ、これも食事と相関するとするとブラストシスティスの直接の影響かどうかわからない。

最後に、細菌叢とブラストシストィストの相関を調べると、一般的に健康的細菌叢と言われているパターンと相関しているが、これも原因か結果かはわからない。

以上が結果で、原虫という意外な健康的食生活のバロメータが見つかったという以外にはなかなかはっきりした結論が出ないが、しかし目の付け所は面白い。おそらく、感染実験まで行く予感がするが、非病原性の原虫を含む飲料まで行ってしまうかもしれない。

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