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7月26日 急性骨髄性白血病の幹細胞を標的にした治療法の開発(7月24日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年7月26日
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白血病は正常細胞と比べて増殖能力が高く分化能力が低いことが諸悪の根源なのだが、全ての細胞が抗ガン剤に反応するわけではないことがわかっている。すなわち、増殖していない静止期の細胞が存在し、増殖しないため抗ガン剤の作用を乗り越えてしまう。カナダの Bob Jack たちはこれを白血病幹細胞と定義し、ガンを根治するためにはこの集団をたたくことが必要なことを明らかにした。

急性骨髄性白血病の治療にいまだ骨髄移植が必要ということは、白血病幹細胞の概念が定立してすでに四半世紀が経過したのに、この集団をたたく方法の開発ができていないためで、これまでも様々な方法が提案されているが、定着していない。

今日紹介するジュネーブ大学からの論文は、実際の臨床例から白血病幹細胞(LSC)の性質を調べ直し、LSC が鉄の供給能が低いため、鉄を供給するためのオートファジー機構に依存しており、これを標的として LSC 特異的な治療が可能であることを示唆した論文で、7月24日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Targeting ferritinophagy impairs quiescent cancer stem cells in acute myeloid leukemia in vitro and in vivo models(フェリチノファジーを標的にすることで急性骨髄性白血病の静止期幹細胞を試験管内及び生体内で傷害できる)」だ。

この研究は実際の患者さんの AML を免疫不全マウスで継代し、ストックを作ったうえで、LSC の特徴を探っている。ただ、このような研究はこれまでも無数に行われており、定義法はそれぞれ異なるが、最終的に移植後もほとんど増殖せず静止期にある細胞が、次の個体に移植したとき最も増殖能が高いことを示している。そして、LSC のほとんどは静止期にあるため、増殖抑制剤の作用を逃れることを確認している。

その上で、増殖している幹細胞と静止期の LSC の遺伝子発現を、集団、あるいは single cell レベルで解析し、白血病を支える分子の発現とともに、静止期の細胞だけでオートファジーに関わる分子の発現が上昇していることを示している。しかし LSC でオートファジーが高まり、これが LSC 制御の標的になることはこれまでも示されており、新しい発見ではない。

ただ、この研究では LSC の様々な活動にオートファジーは必要だが、特に細胞内鉄イオン維持にオートファジーが必須で、鉄を吸収するためのフェリチン受容体が増殖白血病細胞に発現していても、LSC では低いことを発見する。実際、オートファジー抑制によって、LSC だけでなく、増殖白血病細胞を抑えることができるが、LSC ではこの抑制を鉄を供給することで解消することができる。すなわち、LSC のオートファジーは鉄イオンを維持する目的が大きな部分を占める。

そこで、フェリチンに結合してオートファジーを媒介する NCOA4 分子をノックダウンして AML 細胞の試験管内、及び免疫不全マウスでの増殖を調べると、LSC 特異的に白血病増殖が抑えられることを発見する。この NCOA4 が媒介するオートファジーはフェリチノファジーと呼ばれ、2021年、中国広州 中山大学から NCOA4 とフェリチンの結合を阻害する化合物が報告されている。この化合物を利用して、最後に試験管内、そして免疫不全マウスへの移植実験を行い、この化合物投与で LSC のコロニー形成能や、ホスト内増殖が強く抑制されることを確認している。

結果は以上で、オートファジーというほとんどの細胞で働く機能を、フェリチノファジーという LSC 特異的な機能へうまく転換することで、LSC 特異的に治療する可能性を示したことは重要で、LSC 制御に一歩踏み出せたかもしれない。ただ、データ自体は決して all or none ではないことから、全ての患者さんに使えるのか、根治につながるのかは人間での治験を経て結論できると思う。しかし、期待したい。

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