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7月28日 老化したがん免疫機構を再活性化するスーパー樹状細胞(7月25日号 Cell 掲載論文)

2024年7月28日
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免疫系の老化は多岐にわたる。一般的には、新しい抗原に対する反応性は落ちる一方、自己に対する反応が上昇する。Covid-19でこの問題が顕著に表れ、高齢者は感染しやすく、しかも重傷化しやすかったことは記憶に新しい。ではガンに対する免疫はどうか?と考えてみると、論文を読んだ記憶はあまり浮かんでこない。逆に、2021年発表されたチェックポイント治療のメタアナリシスでは、高齢者と若年者で効果や副作用に大きな変化はないことが報告されており、ガン免疫に関してはそれほど大きな差がないのかと思っていた。

ところが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、マウスでは間違いなくチェックポイント治療の効果が年齢とともに低下しているが、通常のガン免疫とは異なる経路を活性化して、この問題を克服する可能性があることを示した研究で、7月25日号の Cell に掲載された。タイトルは「Correction of age-associated defects in dendritic cells enables CD4+Tcells to eradicate tumors(樹状細胞の年齢に伴う欠陥を訂正することでCD4T細胞をガン除去に向けることができる)」だ。

研究ではまず老化マウスでメラノーマに対する免疫反応が低下していることを確認したあと、PD-1 抗体や CTLA-4 抗体を用いたチェックポイント治療の効果を比べ、少なくともマウスの系ではチェックポイント治療がほとんど効果を示さないことを明らかにしている。

ところが、老化マウスを TLR 活性化する LPS と、組織障害時に分泌され樹状細胞 (DC) の抗原提示能を活性化することが知られている 1-palmitoyl-2-glutaryl phosphatidylcholine (PGPC) の両方をアジュバントとして用いて刺激すると、驚くなかれガン免疫が復活することを示している。

これはチェックポイント治療にワクチンを組み合わせることの重要性を示しているが、実際起こっているガン免疫反応を調べると、さらに驚くことにガン免疫の主体が CD8T細胞ではなく、キラー活性を持つ CD4T細胞に変化していることを示している。一方、同じように免役しても若いマウスでは、CD8T細胞が主要な役割を占めている。

この現象のメカニズムをさらに調べていくと、LPS+PGPC で活性化されたスーパーDCが、高齢者では CD4T細胞の TH1 反応を強く誘導し、その結果長期に続く免疫メモリー形成だけでなく、CD4T細胞をキラー細胞へと変化させられることを示している。

DC反応の高齢化に伴う変化を調べると、1)高齢化でも変化しない IL-1β 分泌を中心とする自然免疫機構、2)高齢になると機能が喪失し元に戻らない、例えば IL-10 分泌能、そして3)高齢で劣化するが、LPS+PGPC のような強いアジュバント刺激で回復できる CCR7 ケモカイン分泌機機能、の3種類に分けることができ、IL-10 の反応が回復しないまま他の DC 機能を強いアジュバントで活性化することで、普通なら起こらない TH1 に強くバイアスのかかった反応が誘導され、その結果、CD4T細胞をキラー化してガン免疫の低下を補えることを示している。

かなり割愛して紹介したが、以上がマウスを用いた実験の結果で、最後に70歳のボランティアの DC を調整して、高齢者の DC も LPS+PGPC刺激により IL-10 が分泌されないが、TH1サイトカインが誘導される環境を形成し、強い TH1 バイアス反応を誘導できることを示している。

結果は以上で、確かに DC も老化に伴い様々な変化が起こるが、ガン免疫に関する限り、強いアジュバントと抗原刺激をうまく提供できれば、DC を活性化し、新しいキラー活性を誘導できるという結論だ。大変複雑な実験が繰り返されわかりにくいのだが、ガンワクチンを高齢者に使うとき、TLR 刺激だけでなく、スーパーDCを誘導することの重要性を示した結果は、臨床でも調べてみる価値がある。

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