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7月19日 抗 IL-11 抗体は夢の抗老化薬になるか?(7月17日Nature オンライン掲載論文)

2024年7月19日
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アンチエージングという言葉があふれるようになったのはいつからだろうか?一般に言われるようになったのはそれほど遠い昔からではない。おそらく我が国で急速に進む高齢化を反映しており、例えば急に葬儀屋の宣伝がテレビにあふれ出しているのと同じ現象だろう。ただ、老化は様々な要因がからんで進むため、アンチエージングは簡単ではない。ほとんどの場合は気休めと言っていいだろう。

とはいえ、面白いポイントを突いた有望な方法も報告されており、徐々に検証が進められている。そんな中、今日紹介するシンガポール・デューク大学からの論文は、一つのサイトカインの制御で多岐にわたるアンチエージング効果が達成できることを示した研究で、7月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Inhibition of IL-11 signalling extends mammalian healthspan and lifespan(IL-11シグナル阻害は哺乳動物の健康寿命と寿命をともに延長できる)」だ。

IL-11 はナンバーからわかるように1990年に発見されているにもかかわらず、研究は進んでいない。例えば PubMed で IL-11 を検索すると、2813編の論文しかリストされない。これに対し同じファミリー分子 IL-6 で検索するとなんと196766編も論文がリストされる。また、同じように自然炎症に関わるサイトカイン IL-1β で検索すると114723編なので、如何に IL-11 が穴場かがわかる。

研究では、マウスの老化とともに、様々な組織、様々な細胞でこの分子の発現が高まること、そして IL-11 がともに老化に関わる自然炎症とともに、AMPKを抑えてmTORという代謝の中核経路を活性化することから、IL-11 が老化を促進する因子として働いているのではと着想し、IL-11ノックアウトマウスを調べている。

すると期待通り、老化に伴う体重や脂肪組織の増加を抑え、及び筋肉増強などが観察される。さらに詳しく調べると、糖代謝のはっきりとした改善(インシュリン感受性増加)を見ることができ、また白色脂肪組織から熱発生の褐色脂肪組織への転換を誘導できることを発見する。

そこで、ノックアウトではなく、抗体により IL-11 を中和することで老化に伴う様々な変化を抑えることができるか、75週目から100週目まで IL-11 中和抗体を投与して調べている。おそらく結果は期待以上で、肥満を抑え、筋肉量を維持し、運動機能の低下が抑えられ、しかもmTORの活性化を抑えているので、糖代謝、脂肪代謝が改善している。もちろん脂肪組織の肥大が抑えられ、アディポカインなどの分泌が正常化しており、自然炎症も抑えられている。

そして最後の決め手として、抗体投与により寿命を延ばせるか、100週を超えて追跡すると、75週目から投与を始めても、抗体投与群では IL-11 ノックアウトマウスと同じように平均寿命が2割も延びていることが明らかになった。

結果は以上で、マウスの実験で人間にどこまで当てはまるかわからないとしても、どうして今まで気づかなかったのかと思うぐらいの効果だ。実際、100週を超した IL-11 ノックアウトマウスの毛並みを見ると、本当に驚く若々しさだ。また紹介は省いたが、IL-11 で細胞を刺激すると、細胞老化を示す。しかも、ノックアウトマウスに特に異常が見当たらないとすると、IL-11 などは百害あって一利なしというサイトカインになってしまう。

健康寿命と寿命を延ばすと決めてしまう前に、では IL-11 の存在する積極的意味は何なのかについても是非知りたい。これが夢のアンチエージングの入り口になるのか、慎重に見ていこう。

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