11月3日 自然免疫に関わる2型自然リンパ球が生後の抑制神経シナプス形成に関わる(11月1日 Science 掲載論文)
AASJホームページ > 2024年 > 11月 > 3日

11月3日 自然免疫に関わる2型自然リンパ球が生後の抑制神経シナプス形成に関わる(11月1日 Science 掲載論文)

2024年11月3日
SNSシェア

新生児期に脳は刺激に応じてシナプスを剪定し、脳回路をより外界の刺激に適応するよう変化させる可塑性を発揮する。この重要な過程は、脳への刺激だけでなく、炎症刺激などによっても影響されることが知られている。例えば、この時期に寄生虫に強く晒されると、学習能力の低下が起こることが知られている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、新生児期の神経発達に、寄生虫に対する免疫を担う2型自然リンパ球 (ILC2) が、外界からの感染とは無関係に髄膜内で発達し、この細胞から分泌される IL13 が直接抑制性シナプス形成を促し、主に社会性を発展させることを示し、また IL4/13 と神経回路との関わりを示した興味深い研究、11月1日 Science に掲載された。タイトルは「Group 2 innate lymphoid cells promote inhibitory synapse development and social behavior(2型自然リンパ球は抑制性シナプスを促進して社会性を発展させる)」だ。

ILC2 は新生児期に様々な組織で発達することが知られているが、この研究ではこのとき脳ではどうなっているのか、これまであまり問われなかった疑問にチャレンジしたことがハイライトになる。Single cell RNA sequencing と組織学を組み合わせて調べた結果、脳実質内にまでは侵入しないが、髄膜で生後急速に ILC2 の数が増加し、生後15日ぐらいでピークに達すること、このとき自然に IL-13 や IL-5 といった Th2 型サイトカインを強く分泌することを発見する。この ILC2 の増加とサイトカイン分泌を誘導するメカニズムについてはわからないままだが、おそらく外界からの刺激ではなく、発生の一つの過程として ILC2 が脳髄膜で発達していることになる。

IL-13 受容体は脳細胞で発現していることは何度も報告され、またこのブログでも紹介しているので、ILC2 の新生児期の発達は当然脳発達に影響が及ぶ可能性がある。そこで、ジフテリア毒素を特異的に発現させることで ILC2 を除去する実験を行うと、なんと抑制性シナプス形成が特異的に低下することを発見する。一方、抑制性神経細胞数や興奮性シナプスについては全く影響を受けない。

この効果が IL-13 が直接神経細胞に作用した結果であることを示すために、IL-13 の受容体 ( IL-4Rα と IL-13Rα1 のダイマー) を様々な抑制神経でノックアウトすると、抑制シナプスの減少が観察される。一方、他の細胞で IL-13 受容体をノックアウトしても、抑制性シナプスに影響はない。この結果は、ILC2 の発達と、そこから分泌される IL-13 が発生のシグナルとして、抑制性シナプス形成に関わっていることを示している。

抑制性シナプスと、興奮性シナプスのバランスの乱れは、自閉症や統合失調症の重要な特徴だ。そこで ILC2 を欠損させたとき行動変容が起こるかについて、様々な行動テストを用いて調べている。活動性や、不安症などは認められないが、他の個体との社会性を示す行動テストは ILC2 が欠損すると強く抑制されていた。

以上の結果は、本来は自然免疫細胞として進化してきた ILC2 が、免疫以外の組織の発達に、IL-4 や IL-13 を介して関与するようになり、その一つが脳内の抑制性シナプス形成を促進して、興奮/抑制バランスを安定させる働きを獲得したことになる。もちろん ILC2 は様々な外界の刺激にも反応するので、新生児期の感染は脳発達に影響が及ぶ可能性があるので、これからは発達期の髄膜 ILC2 は注目していく必要がある。

カテゴリ:論文ウォッチ
2024年11月
« 10月  
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930