11月6日 心筋梗塞後は眠りがちになるのは心臓を守る反応(10月30日 Nature オンライン掲載論文)
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11月6日 心筋梗塞後は眠りがちになるのは心臓を守る反応(10月30日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月6日
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この論文を読むまで知らなかったが、心筋梗塞後眠りがちになることがあり、これは心臓の機能が低下するからだとされてきた。

今日紹介する米国マウントサイナイ医科大学を中心の国際チームからの論文は、心筋梗塞後、白血球の脳脈絡膜への移動を介して眠りが誘導され、これによって心筋梗塞の修復が早まるという、極めて合目的な仕組みを示した研究で、10月30日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Myocardial infarction augments sleep to limit cardiac inflammation and damage(心筋梗塞は睡眠を促進して心臓の炎症とダメージを抑える)」だ。

この研究ではマウスの心筋梗塞を誘導したあと、睡眠を記録すると、ゆっくりした脳波が発生する徐波睡眠が梗塞1日目から高まり、夜もほとんど活動しなくなり、1週間以上眠りがちになることを示している。

素人考えだと、梗塞による不安や痛みなどで寝られないのかと思うのだが、結果は逆のようで驚いた。この眠りがより能動的な心臓と脳とのコミュニケーションの結果だと考えた著者らは、脳の脈絡膜に TNF を分泌する単球が梗塞直後から集まることを発見する。そして single cell RNAsequencing から、この移動がケモカインにより誘導され、これを阻害すると夜眠らず活動するようになる。実際、心筋梗塞がなくても心筋梗塞後の単球を脳に移植すると、睡眠が促進され、この単球が脳に集まることで誘導されていることを確認している

また TNF を阻害する抗体を全身投与すると、傾眠傾向は抑えられるが、それほど強くない。しかし、TNF のノックアウトされた単球を脳に移植する実験を行うと、眠りの誘導性がほとんどなくなる。また、TNF 受容体がノックアウトされたマウスで心筋梗塞を誘導すると傾眠傾向はほとんど消える。すなわち、神経細胞の中で TNF 受容体を発現している集団が、白血球からのシグナルを受けて睡眠を誘導していることになる。

Single cell RNA sequencing や組織解析から、TNF に反応して睡眠を誘導する神経細胞は概日周期にも関わる視床の外側後部に存在するグルタミン作動性神経であることを突き止める。

では、この眠りの促進の機能的意味を調べるため、心筋梗塞を誘導したあとで誘導される睡眠を、何度も棒でつついて妨げる実験を行うと、心筋梗塞の治りが悪くなる。組織学的には修復が遅れ、繊維化が促進し、機能的に拍出量が低下する。

同じことが人でも見られるか、梗塞後の睡眠を記録すると、よく寝れた人の回復が高いことを確認する。

最後に、眠りにより梗塞の治癒が高まるメカニズムを探り、交感神経がリラックスすることで、炎症性マクロファージの梗塞巣への侵入が防げること、この結果心筋梗塞の損傷治癒が早まることを示している。

結果は以上で、心筋梗塞で眠りがちになるケースがあることに注目した点が面白いが、結果としてはよく寝ることが病気の回復には重要なことを改めて示した研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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