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5月2日 「2度目のワクチンは初回と同じ側の腕に打つべし」の根拠(4月24日 Cell オンライン掲載論文)

2025年5月2日
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オーストラリアは伝統的に免疫学に強みを持っており、学生時代からM.Burnetやその弟子のNossal 、また胸腺の役割を解明したJacque Millerが活躍していた。個人的印象と断っておくが、ユニークな方法論を駆使して仮説を証明する研究が多い様な気がする。例えば、リンパ節の輸出リンパ管から流れてくるリンパ球を集めてリンパ球が再循環していることを示した研究などはその典型だろう。

今日紹介するオーストラリア シドニーにあるGarvan医学研究所からの論文は、リンパ節内でのメモリーB細胞の動きをモニターする独自の技術を用いて、抗原を注射した側のリンパ節でのメモリーB細胞の動きが抗原を経験しないリンパ節とは全くことなることを示し、ワクチン接種で2度目のブーストは同じ側の腕に行うことが重要であることを示した研究で、4月24日 Cell にオンラインに掲載された。タイトルは「Macrophages direct location-dependent recall of B cell memory to vaccination(ワクチンに対する局所依存的B細胞メモリー反応はマクロファージにより指示される)」だ。

コロナワクチンは最初は2回に分けて接種され、まずプライミングで記憶を誘導したあと、もう一度ブーストでB細胞メモリーの強い反応を誘導するプロトコルがとられた。Gowansたちが発見したように、メモリーB細胞は再循環するので、2回目のブーストは同じ腕に接種する必要がないように思われるが、実際には局所に免疫メモリーがより多く残存している可能性を考え、同じ腕にブーストすることが勧められていたと思う。私も聞かれたとき、同じ腕の方がいいと思うと答えていた。

この研究はこの問題を動物と人間を用いてメカニズムレベルで解明しようとしている。使われたのはこのグループが独自に開発した、リゾチーム抗原に対するメモリーB細胞をリンパ節内でライブイメージングする技術で、ホストと区別できるB細胞を注射したマウスの片方の脇腹に抗原を注射、支配リンパ節でのメモリーB細胞の行動を追跡している。

生きたマウスのリンパ節で、ここまで美しいイメージングが可能なのかと驚くが、抗原を注射した側のリンパ節 (dLN) での動きは反対側のリンパ節 (ndLN) と全くことなっていることが明らかになった。即ちdLNではメモリーB細胞はマクロファージが並ぶリンパ節被膜近くを移動し、あまり胚中心には移動しない。一方ndLNでは通常の再循環型のメモリーB細胞の示す行動、即ち皮膜から胚中心までまんべんなく移動している。この移動は被膜下のマクロファージ層により調節されており、CSF-1受容体をブロックしてマクロファージ層の形成を妨げると、メモリーB細胞の動きは止まってしまう。

この抗原でプライムされた側のdLNのメモリーB細胞とマクロファージ層との相互作用は、次のブーストの結果に大きな影響を持つ。抗体反応ではなく、リンパ節内でのB細胞の反応を調べるとdLNでは抗原特異的メモリーB細胞の増殖は10倍以上になり、これはブーストを受けたdLNでメモリーB細胞が速やかに胚中心に移行してT細胞などと相互作用する結果であることがわかる。このことから、ブーストに対するメモリーB細胞の反応は抗原でプライムされた側で圧倒的に高く、これに抗原に暴露されたマクロファージが関わることが示された。しかも、ブーストにより胚中心へと速やかに移行するため、抗体の親和性をブーストに合わせて調節することも可能になる。即ちバリアントの抗原にも対応できるようになる。このとき、抗原でプライムされたT細胞は当然重要な働きを演じているが、胚中心へをメモリーB細胞をリクルートするのはあくまでも被膜下のマクロファージだ。

この行動の差を誘導する分子メカニズムを探索しているが、おそらく様々な相補的分子がマクロファージとメモリーB細胞で働いて、B細胞の移動を決めていると考えられる。実際、接着因子やケモカインなど様々な分子の発現がdLN側で上昇している。

そして最後に以上のマウスの結果を人間のCovid-19ワクチンで試している。即ち、一回目の摂取の後、2回目を同じ腕と、反対側の腕に接種するグループに分け、ブースとした後抗体価をを調べると同時に、リンパ節のニードルバイオプシーを行い、細胞の反応を調べている。

結果は予想通りで、抗体価で見ると同じ腕にブーストした方が早く強い反応が得られる。また、他のコロナウイルスバリアントに対する反応も同じ腕にブーストした方が誘導できる。そして、この反応の違いが胚中心のメモリーB細胞の増殖がdLN側で強く起こっている結果であることを示している。

以上が結果で、ワクチンは同じ腕に接種する方が良いことをメカニズムレベルで示した面白い研究で、オーストラリア免疫学の伝統の感じられる研究だと思う。

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