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5月17日 染色体を分けて複数の核に分配して維持する生物(5月15日Science掲載論文)

2025年5月17日
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今週号のScienceには常識を超えた生物についての論文が2報も掲載されていた。一つはオランダの海洋研究所、バージニア工科大学が発表した論文で、鞭毛虫クラミドモナスのゲノム中に存在する巨大ウイルスについての研究だ。

ゲノム解読が進み、大腸菌と同じサイズのゲノムを持つ巨大ウイルスの存在が知られていたが、実際にウイルス粒子としてホストゲノムと行き来することが確認されたケースは少なく、一番大きなもので300kbの大きさだった。この研究では、クラミドモナスの染色体に、最大600kbの巨大ウイルスが組み込まれており、そのうちのいくつかは細胞質内のウイルス粒子として特定できることを示した研究と言える。

ホストゲノムを出入りし、粒子としてパッケージされるメカニズムはわからないが、出入りに必要な遺伝子は特定できることから、これから面白い領域に発展する気がする。是非注目していきたい。

もう少し詳しく紹介したもう一つの論文は中国四川大学と、カナダのBritish Colombia大学からの論文で、一揃いの染色体セットをわざわざ複数の核に分けて維持する糸状菌の発見で、生物の多様性を思い知る研究だ。

糸状菌は農作物に対する病原菌で、その対策研究として、この菌に特有の一種の胞子といえる土の中で何年も休眠する休眠体形成について研究する過程で、この糸状菌が16本の染色体を8本づつ2つの核に分けて格納していることを発見した。

糸状菌は1倍体のまま増殖しているが、核を2つ持っている。これまで、フルセット揃った核が2個存在して2倍体のように生活していると考えられてきたが、休眠体に関わる遺伝子を特定する目的で突然変異を誘導し、形質が変わった糸状菌を調べると、2核存在するとすると説明がつかない形質分離が観察された。即ち、変異により起こった形質転換は全ての子孫個体に伝わる。もしフルセットの二核が存在するとすると、正常遺伝子が一定の確率で残るので、子孫への伝達は100%にならない。

この結果から、糸状菌は1倍体で、16本の遺伝子を2核に分けて維持している可能性を着想し、様々な方法を用いてこれを確認している。結果、各糸状菌個体は、16本の染色体を、8本づつ2つの核に格納していることを確認している。

面白いのは、それぞれの核に決まったセットが分配されるのではなく、8本は分裂の度に選び直されている。そして、これまで多核を持つとして知られていたB.cinereaについても改めて調べ直すと、核の数は3個から6個と個体ごとに異なるが、トータルの染色体数は同じで、一揃いの染色体がいくつかの核に分かれて格納されていることがわかった。

結果は以上で、メカニズムはこれからだが、不思議な生命の様式が存在していることに驚かされる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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