今日は少し趣向を変えてアスリートの健康リスクについての論文を2報紹介する。
まず最初のバスク大学からの論文は、プロフェッショナルのアスリートではないが、マラソン完走後の脳変化を調べた研究で、この号の表紙になっている。

これまでウルトラマラソンランナーでは完走後に脳が縮小することが報告されていたが、この研究では様々なマラソン大会参加者からボランティアを募集し、10人についてマラソン前、マラソン後48時間以内、2週間後、2ヶ月にMRI検査を行っている。検査は脳白質のミエリンの量に焦点を当てている。といっても実際にはミエリン層に蓄積された水の量を量って、ミエリンの量としている。従って、脱水など他の要因でミエリンが減って見えることはあるが、今回測定できたのは正確にミエリンの量を反映していることを確認している。
さて結果だが、マラソン完走後48時間以内ではミエリンの量が平均で25%近く減少する。この減少は、運動神経とその調節に関わる領域で高いことから、おそらくグルコースの供給が低い時に長期間神経活動を維持するために、脂質でできているミエリンをエネルギー源として供給しているのだろうと結論している。本当にミエリンが局所でエネルギー源として働いているのかは、動物で実験可能だと思う。
研究ではマラソン完走後2週間、2ヶ月でも同じ検査を行い回復を調べている。2ヶ月ではほぼ完全に回復しているが、2週間ではまだ完全な回復は見られていない。
以上が結果で、マラソン愛好家も少し気になるところだろう。重要なのは、ミエリンが減少しているときにどのような症状があるのかをはっきりさせることだろう。また、脳内のグルコースを高める方法の開発も重要な気がする。
次の論文はイタリアパドバ大学からの論文で、2005年から2020年に開催されたプロフェッショナルのボディービル・コンペティションに参加したボディービルダーを協会の登録をベースに追跡し、平均8.5年の経過観察期間中の死亡とその原因を調べた研究で、4月10日 European Heart Journal にオンライン掲載された。

統計的に妥当な集計が行われていることを確認した上で、死亡率をプロフェッショナルなボディービルダーとアマチュアで比べると、なんとプロはオッズ比で5−6倍死亡率が高い。そして、最も多い死亡原因は心臓の突然死で、37%にも登る。
即ちプロフェッショナルボディービルダーは心臓死の高いリスクを背負っていることが統計的に示された。解剖が行われたケースでは、ボディービルダーの心臓が肥大していることが確認されており、心筋の強化が逆に突発的な心臓死の原因になっている可能性が高い。
これが純粋なボディービルディングの結果かどうかははっきりしない。というのもボディービルディング協会ではドーピング規制がほとんどなく、多くのボディービルダーは筋肉増加ステロイドなどの増強剤を使っている。実際、アマチュアでは突然死がそれほど上昇していないことを考えると、増強剤の影響による可能性は大きい。その意味で、この結果を受けてボディービル協会もドーピング規制を厳しくした方がいいと結論している。
他にも、ボディービルダーはアミノ酸やプロテインを多量に摂取する傾向があり、これが腎不全に繋がることも知られている。とすると、プロもアマも健康第一で競争を楽しむことが重要だといえる。