5月13日 気になる臨床研究3題(5月29日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)
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5月13日 気になる臨床研究3題(5月29日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)

2025年5月13日
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最初の論文は米国イェール大学からで、自然に存在するファージを用いて治療が難しい緑膿菌感染症を抑えようとするコンパショネート治療研究で、4月29日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

嚢胞性線維症や汎細気管支炎で緑膿菌感染が合併すると予後不良の原因になる。マクロライド系抗生物質の少量継続投与が行われるが、根治は望めない。私も卒業したての頃、一人患者さんを持ったことがあるが、無力を感じた。

この研究では嚢胞性線維症で緑膿菌感染を合併した9人の患者さんに、それぞれが感染している緑膿菌を溶菌させられる自然に存在するファージウイルスを選んで、それをネブライザーで1日2回7−10日吸引させ、喀痰中の菌を指標にした感染改善の有無と肺機能を調べている。

結果は期待できるもので、全ての患者さんで2週間目の喀痰中の緑膿菌数は大きく減少しており、治療をやめても30日まで維持されている。治療後に突然変異によるファージへの抵抗性が発生するケースが多いが、一方で併用している抗生物質への感受性が上がることで長期効果が見られるようだ。

さらに勇気づけられるのは、一秒率などの肺機能が少し改善する点で、今後プロトコルを工夫した治療法へと発展できる可能性は高い。

次の論文はImmatics US社を中心としたドイツ、米国の研究グループによるメラノーマへT細胞治療治験で、4月9日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

T細胞治療の代表はCAR-T治療だが、どうしても固形ガンを苦手としている。この研究では、代わりにほとんどのメラノーマで発現している抗原に対するT細胞受容体 (TcR) 遺伝子をレンチウイルスベクターに組み込んで患者さんのT細胞に導入し、それを静脈注射する方法になる。

要するに特定のTcRを持つT細胞を増殖させて移植するのと同じなので、組織適合性抗原とペプチドを認識することから、この治験の場合患者さんは全てHLA-A*02を発現している人に限られる。このタイプは日本人の60%が保有している頻度の高い組織適合性抗原だ。

この研究ではメラノーマが発現している胎児性抗原PRMEの特定のペプチドに反応するT細胞からTcR遺伝子をクローニング、それをレンチウイルスに組み込んで、CAR-Tと同じようなプロトコルで患者さんに投与している。

胎児性抗原ペプチドなので、自己免疫性の副作用が出るかが気になるが、投与前のリンパ球除去方などによる副作用が中心で、十分マネージ可能としている。一方、効果の方だが病気の進行を1年以上抑えることが多くの患者さんで可能になっている。また、ガン組織に移植したT細胞が浸潤しているのも観察している。

このようにガン抗原が高い頻度で発現している場合、TcR自体を導入する方法は、特に固形ガンで期待できる。

最後のベルギーLeuvenカソリック大学からの論文は少し風変わりで、料理の方法が健康に及ぼす影響を調べた治験で、5月20日号 Cell Reports Medicine に掲載された。

グリルやオーブン調理のような直火による料理法では還元糖とアミノ酸が反応して、肉を焼いたときに見られる褐色のメラノイジンが発生するメイラード反応が起こる。このとき発生する分子はdietary advanced glycation end products (dAGEs) と呼ばれているが、健康への影響が議論されている。

この研究では22人の被検者を募り、無作為化したあと半分にはグリルやオーブンによる料理を自由に食べさせ、もう片方にはスチームやボイル以外の料理法を禁じ、1週間後のdAGEsを含む様々な検査を行い、dAGEsの健康への影響を調べている。

当然のことながら焼く料理を続けた方が血中の様々なdAGEs濃度は高まる。ただこれにとどまらず、血中のトータルコレステロールがや、dAGEsのレベルと比例して上昇するので、食事はその内容だけでなく、料理法も重要な要素となることがわかる。

他にもdAGEsの低い調理法では健康のバロメータとされるAE-BPの血中濃度が上昇することも示しており、様々な面で焼かない料理は身体に良さそうだ。

以上、要するに料理法まで考えて健康を維持することの重要性を訴える研究だが、トーストの焦げ目や焼き肉を完全に諦めるのは難しい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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