多くの神経変性疾患で共通の原因がタンパク質の細胞内沈殿形成で、アルツハイマー病のTau、パーキンソン病のαシヌクレイン、そしてALSでのTDP-43はその典型例だ。このブログでも紹介したが、最近これらタンパクが相分離により濃縮されることが凝集形成に関わることが明らかになってきた。
今日紹介するドイツ・ドレスデン工科大学、ドレスデンマックスプランク研究所、そしてテキサスA&M大学からの論文は、TDP-43の相分離から凝集までの過程と、背景にある分子基盤を明らかにした力作で5月23日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Intra-condensate demixing of TDP-43 inside stress granules generates pathological aggregates(TDP-43の異常凝集はストレス粒子相分離体内での分離により起こる)」だ。
これまでTDP-43単独でも相分離が起こることが知られていたが、必要な細胞内濃度が現実ではないので、もっと低い濃度でTDP-43が相分離し、その後凝集体を形成する過程を詳しく調べている。この結果、低い濃度でも細胞がストレスに晒され、RNAと結合タンパク質が集まったストレス粒子が形成されると、そこにTD-43が組み込まれることで相分離し、その中で今度はTDP-43単独の凝集体を形成して相分離体から離脱することを発見する。
この過程をガイドしているTDP-43の様々な領域や、結合するタンパク質について徹底的に調べている。例えばTDP-43はRNA結合タンパク質なので、RNA結合性がなくなると相分離できないし、その結果凝集も起こらない。また、RNAをスキャフォールドとして相分離体を形成するタンパク質HSPB1をノックアウトすると、TDP-43の相分離も起こらない。これらの解析からTDP-43は低い濃度でもRNAに結合して、細胞ストレスにより誘導されて相分離が起こるストレス粒子内に取り込まれて相分離に参加する。
ストレス粒子が形成される細胞ストレスの多くは、酸化活性上昇を伴うことが多いが、これが起こると今度はTDP-43のRNA結合ドメインに存在するシステインがむき出しになりS-S結合が始まり、これを引き金にしてRNAから離れるとともにTDP-43同士の結合が始まる。これにより、細胞内でTDP-43が相分離体から分離して、液相から固相への転換が起こることが観察される。
分子シミュレーションや、分子の一部を改変する実験から、相分離体への参加、相分離体からの離脱、そして固相への転換による凝集体形成までの分子基盤を完全に明らかにしているが、ここでは割愛する。その上で、培養細胞実験系だけでなく、iPS由来運動神経細胞などを用いて同じ過程が起こることも確認している。
以上が結果についてのかなり省略した説明だが、これまで知られているALSの発症に関わる変異や、観察をほぼ全て説明できる。そして、相分離から凝集に至る分子についてもほぼ明らかになったので、うまくいけばこの過程を抑制する方法を見つけられるのではと期待される。
説明すると簡単だが、膨大な実験に基づくわかりやすい研究で、この論文は実際に手に取って読んでほしい。神経変性疾患のタンパク質凝集のことがよく理解できるようになる。