コロナパンデミックでは様々なワクチンのモダリティーが試されたが、間違いなくmRNAワクチンに軍配が上がった。これが実現したのはノーベル賞を受賞したKarikoさんとWeissmanさんがmRNA中のウリジンを化学的に修飾した pseudouridine (PU) に置き換えることで、mRNAが本来持つ劇的な炎症誘導作用を抑制し、mRNAの翻訳効率も格段に上げられることを示したからだ。
しかし抗原特異的免疫反応を誘導するためには一定の自然免疫反応は必要で、Karikoさんたちの最初の論文では自然免疫がほとんど誘導されない方が強調されているが、おそらくいい塩梅の自然免疫が誘導できているのではと想像されていた。
今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、mRNAワクチンを構成するPU-mRNAとそれを包む脂質ナノ粒子 (LNP) の自然免疫誘導能力を個別に検証して、mRNAワクチン大成功の秘密を探った本来ならワクチン開発前に行われていても不思議ではない重要な研究で、12月16日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Distinct components of mRNA vaccines cooperate to instruct efficient germinal center responses(mRNAワクチンのそれぞれの構成成分は胚中心の免疫反応の効率を上げるように協調する)」だ。
全てマウスモデルで行われているが、ワクチン効果の細胞学的基礎を注射した抗原が移動する所属リンパ節で濾胞型T細胞 (Thf) が誘導され、胚中心と呼ばれる抗原特異的B細胞を刺激するための場が形成されること決めて、この過程にPU-mRNAとLNPがそれぞれどのような機能を保つか、徹底的に調べている。詳細は省くが、免疫細胞のダイナミックスを調べるためのあらゆる方法を取り込んだ実験で、久しぶりに抗原特異的反応へのプロフェッショナルなアプローチを読んだ気がした。
まず最初に行っているのは、PU-mRNAが自然免疫を誘導してくれるかどうかを調べているが、自然免疫に関わるインターフェロン受容体や様々な分子をブロックしたときに、PU-mRNAの効果を調べることでこの問題にアプローチしている。結論的に言うと、PU-mRNAといえども主にインターフェロンを介する自然免疫を誘導しており、この背景にはPU-mRNAが細胞内でTLR3/7センサーに感知されるからだということを明確に示している。生のmRNAと比べると反応するセンサーは少なく反応も低いが、間違いなくインターフェロン誘導を中心とする自然免疫が誘導され、これがThf及び胚中心形成に必須であることがわかる。さらに、まだよくわからないセンサーを介して自然免疫に関わるIL-1シグナルも動員して、バランスのいい免疫反応を誘導していることも示している。一方で、激烈な反応に関わるRIG-1やMDA5センサーには引っかからない。
次に、動員される樹状細胞をLipsticと呼ばれる反応するT細胞によって樹状細胞側の分子がビオチン化されるというテクノロジーを用いて調べ、ヘルパーT細胞を誘導するDC2である事を特定するとともに、こうしてラベルしたDC2がThfや胚中心を誘導するための様々な分子を誘導することを示している。
このmRNAワクチンに対する反応には当然LNPの貢献も存在すると考えられるので、次はLNP有り無しでのワクチン接種実験を行い、LNPの標的になると考えられるDC2の反応を調べている。面白いことに、LNPが存在するときだけ樹状細胞にIL-2と結合してT細胞シグナルを弱めて免疫を適正化できるCD25が発現すること、及びEbi1と呼ばれる脂質に反応するシグナルがオンにることを示している。そしてこれらの作用でThf反応が高まり、胚中心が形成される。
最後にLNPに包んだPU-mRNAワクチンのリンパ節への移動についても調べ、筋肉注射によりリンパ管を通って直接リンパ節内の樹状細胞。それもDC2により選択的に取り込まれること、この移動に組織に常在する樹状細胞は必要無いことを示している。
以上が結果で、我々が身をもって効果を経験したmRNAワクチンの秘密を改めて教えて貰った面白い研究になる。
