12月28日 メチルフェニデートの脳作用(12月24日 Cell オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2025年 > 12月 > 28日

12月28日 メチルフェニデートの脳作用(12月24日 Cell オンライン掲載論文)

2025年12月28日
SNSシェア

リタリンやコンサータという名前で知られるメチルフェニデートは1944年に合成され、1954年には臨床利用が始まった薬剤で、ノルアドレナリンとドパミンのトランスポーターを阻害して再取り込みを抑制することで、ドパミンやノルアドレナリン濃度を上昇させることがわかっている。処方薬だが、覚醒剤と同じ効果を持つため、処方できる医師を登録するなど厳しい規制下にある。事実リタリンは即効性の副作用のため使いにくかったが、徐放生のコンサータの出現で子供の注意障害などにも使われるようになった。

今日紹介するワシントン大学からの論文は、メチルフェニデートを服用している子供の機能的MRI画像を337例も集めて解析し、これまでメチルフェニデートの作用として信じられてきた注意ネットワークに作用するのではなく、脳の覚醒ネットワークと報奨ネットワークを活性化することを示した研究で、12月24日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Stimulant medications affect arousal and reward, not attention networks(精神刺激薬は覚醒と褒賞回路を活性化するが、注意ネットワークには関わらない)」だ。

この研究は Adolescent Brain Cognitive Development (ABCD) と呼ばれる全米の1万2千人の小児を長期追跡したプロジェクトの参加者のなかで、メチルフェニデートを服用している300人近くの子供の fMRI画像の解析から、メチルフェニデートにより変化する脳の結合性を調べている。これまでも同じような研究は行われ、注意ネットワークが活性化されると信じられてきた。その結果として注意障害を示すADHDの子供に用いられてきた。ただこれまでの研究は、ほとんどの場合100人以下の小規模研究で、撮影時間も短く、条件も揃っていなかった。これに対し、ABCDはMRI画像の撮影条件を標準化し、画像の品質管理が厳しく行われており、これに合致する画像が300人以上得られるというのが大きな利点になっている。

この研究では平均化された脳画像から、parcel-wise map と呼ばれる機能的結合性を中心に、リタリンを朝服用した子供がその日検査に来た時に認められる変化を調べている。どの領域と詳しく紹介するのはやめて結論だけにするが、朝メチルフェニデート服用により誘導される変化は、覚醒状態の誘導と維持に関わる、すなわち目が覚めて頭がはっきりしていることに関わる領域の変化を誘導することがわかった。

ABCDコホートの素晴らしいのは他の課題についてのデータと比較ができる点で、活性化される領域の活動を睡眠との関係で見直すと、睡眠時間と相関して変化する領域と一致する。また、覚醒を誘導するノルアドレナリン受容体の数の多い領域とメチルフェニデートにより活性化される領域が重なることから、メチルフェニデートは注意ネットワークではなく、睡眠からの覚醒時に活性化される領域に働いていることを示している。

さらに、良い睡眠によりもたらされる学業や知能テストの成績向上と同じ結果をメチルフェニデート投与でも誘導することができる。そして極め付けは、寝不足で低下する知能テストの成績をメチルフェニデート投与で防ぐことができる。そして睡眠時間により変化する脳領域結合性の関係は、メチルフェニデート投与で解消される。

以上の結果から、メチルフェニデートの作用はこれまで考えられてきたように注意ネットワークの活性化ではなく、目が覚める時にノルアドレナリンが働くのとほぼ同じプロセスが起こっていると結論している。もちろん、これ以外にドパミンの濃度も上昇することから、報奨系の活性化も併せて起こると考えられる。

とすると、現在ADHDの子供に投与しているメチルフェニデートは、注意力を活性化しているというより、ADHDで起こりやすい睡眠不足症状を抑えているだけかもしれない。様々な分野で今年も多くの進展があったが、このように人間の脳の理解も着実に進んでいる。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年12月
« 11月  
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031